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第3話

 俺は頷いたが、きっと新任だから、まだ俺のことを知らないのだろうと考える。王都から来たとは言うが、俺の父の事件はもう五年も前だから、忘れ去られているのかもしれない。 「少しお話がしたいから、中に入れてもらってもいい?」 「う、うん」  おずおずと頷き、俺は中に振り返る。幸い、椅子は二脚ある。母と俺が座っていたものだ。父の分は、母が亡くなる前に壊してしまった。  中に引き返した俺は、簡素なヤカンの前に向かう。火を点けて、俺はお湯を沸かす。来客なんてこないけれど、知識としてお茶を出すくらいはした方がいいのだろうという判断からだ。ユイフェルという名の牧師様は、椅子を引いて座った。それを確認してから、俺はカップに、自分で山で摘んできたドクダミのお茶を注ぎ、カップを二つ持って、テーブルへと戻る。 「お構いなく」 「あっ、その……いらなかったら……残してくれ」 「いいや、社交辞令だよ。いただくよ、ありがとう」  くすりと笑ってから、ユイフェルはカップに口をつける。それを見守ってから、俺もお茶を飲む。 「うん、美味しいな。他で出てきた紅茶や珈琲よりも、僕はこの味が好きかもしれない」 「そうなのか? 変わってるな」 「甘い匂いがするからだと思う」 「? ドクダミ茶だぞ? 甘い匂い?」 「――ああ、こちらの話だよ。別にお茶の話ではないんだ」 「ふぅん?」  ユイフェルの言葉の意味が、俺にはよく分からなかった。 「マイスは、何か困っていることはある?」 「別にない」 「本当に?」 「うん」 「話によると、きみは村八分状態のようだけどね?」 「っ」  笑顔のままでそう告げられて、俺は体を硬くした。知らないのだろうと踏んでいたが、ユイフェルはどうやら知っているようだ。 「きみには挨拶不要だと、散々言われたけどなぁ、僕は」 「……」 「それに、見るからにきみは細すぎる。きちんと食べているのかな?」 「……」 「目の毒だよ、全く。その綺麗な顔で、鎖骨がそんなに見えて、肌が透き通るようだなんて。はぁ。我慢するのも大変だね」 「我慢……? なにを?」 「ああ、いや、これもこちらの話だよ。ところで、栄養状態が本当に悪そうだから、少し体を診せてもらえないかな? これでも僕には、医術の心得がある」

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