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第4話

 にこやかな明るい声音で言われ、俺は困惑した。おろおろとしていると、ユイフェルが立ち上がり、奥のボロボロのベッドの横に移動した。 「こちらに」 「え……べ、べつに、俺は平気だぞ……?」 「いいから」  声音は明るいのに、有無を言わせない迫力があった。おずおずと立ち上がり、俺はそちらに向かう。ユイフェルの胸の位置に、俺の額がようやくあるくらいだから、ユイフェルは本当に長身だし、俺の背はそれだけ低い。 「座って」 「う、うん」  俺がベッドに腰を下ろすと、綺麗な指の長い手で、ユイフェルが俺の右頬に触れた。左手は、俺の肩に置いている。そしてユイフェルは、じっと俺の顔を覗き込んできた。 「マイスは、可愛い顔をしているね。よくこれで――村の者が手を出さなかったものだね」 「? 俺は嫌われてるから、村の人は、ここに来ないし、診察みたいなことはないけど……?」 「そういう意味じゃないよ」 「? じゃあどういう意味な――っ」  尋ねようとした瞬間だった。  ユイフェルが屈んで、俺の唇に、己の唇を当てた。柔らかな感覚に、俺は目を見開く。これは、キスだと思う。小さい頃に母が読んでくれた絵本に、出てきた。 「ん、っぅ」  しかし本当にキスなのか、自信がなくなってきた。俺が唇をうっすらと開けると、そこからユイフェルの舌が入ってきたからだ。驚いて舌を逃そうとしたけれど、舌を絡め取られて、ねっとりと口を貪られる。すると俺の背筋にゾクゾクとした感覚が走った。俺は、こんな感覚を生まれて一度も知ったことはなかった。 「な、なに?」  やっと口が離れた時、俺は手で顎を持ち上げられて、涙ぐみながらユイフェルを見上げた。これは、一体何の診察なのだろう? 「甘い。極上だね」 「?」 「〝フォーク〟の子は〝フォーク〟であるかもしれないから注意深く観察しろと言われてきてみたら、教会の特別保護対象の〝ケーキ〟がこんなところに、こんな風に無防備でいるとはね。食べて下さいって言ってるみたいなものじゃないか。これも神の思し召しかな。僕は善良だしね」  つらつらと語られて、俺はその意味を必死で理解した。そして直後、驚愕して目を見開いた。 「それは、俺がケーキってこと、か……?」

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