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第11話

「っ」  泣き顔を見られたくなかったのだが、涙を拭おうにも手は拘束されている。だから顔を背けたのだが、歩み寄ってきたラークが、僕の顎を掴んで正面を向かせた。 「何故泣いているんだ?」 「……っ、その……」 「具合でも悪いのか? 媚薬の量はいつもと同じなのだから、体が辛すぎると言うことはないだろう?」 「……」 「どうしたんだ? 帰りたくなったのか?」  そう言いながら、ラークが冷酷な目をした。ラークは時々僕に、この質問をする。そういう時のラークの瞳は、いつも暗くて冷たい。 「……そうじゃないよ」  実際、ラークが来てくれるのだから、ラークに会えるのだから、僕はここにいるのが嫌じゃない。 「では、何故泣いてるんだ?」 「……」 「教えてくれ、オリビア」 「……どちらかといえば、逆だよ」 「逆?」  僕の言葉に、ラークが不思議そうな顔をして、首を傾げた。 「僕は食べ物だと思われていてもいいから、ずっとラークのそばにいたいんだ。恋人じゃないっていうのは、もう分かってる。それでも、僕はラークが好きなんだよ……だから……なんていうか……辛くて。ラークのことを考えてると、辛いんだ。ラークは、好きじゃないけど、僕にしか味がしないから、好きでもないのに僕に触るんでしょう? ハハっ、そう考えると、ケーキに生まれてきて、良かったよね、僕は。うん……うん……」  僕は泣きながら笑った。本当は涙を止めたかったけれど、止まってくれなくて、それでも無理に笑ったせいで、自分でも酷い顔をしている気がした。ラークは虚を突かれたように息をのんでいる。それから大きく二度瞬きをすると、僕を見て本当に不思議そうな顔になった。 「俺はお前を食べ物だなんて思っていない。どういうことだ?」 「? だって……朝晩、食事の時しかここに来ないし」 「それは……――お前との接触を最低限にすることで、これ以上嫌われないようにしようと思っただけだ」 「え?」 「俺であれば、自分を食べ物のように扱う相手など、嫌いになる。それでも俺は、お前が好きだから、これ以上嫌われたくないと思って、なるべく余計なことをしないようにと思っていたんだ。俺がお前なら、俺の顔を見るのも嫌だろうと思ってな」 「どうして? 僕はラークが好きだから、ずっと好きだったから、一緒にいたいのに……」

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