11 / 16
第11話
「っ」
泣き顔を見られたくなかったのだが、涙を拭おうにも手は拘束されている。だから顔を背けたのだが、歩み寄ってきたラークが、僕の顎を掴んで正面を向かせた。
「何故泣いているんだ?」
「……っ、その……」
「具合でも悪いのか? 媚薬の量はいつもと同じなのだから、体が辛すぎると言うことはないだろう?」
「……」
「どうしたんだ? 帰りたくなったのか?」
そう言いながら、ラークが冷酷な目をした。ラークは時々僕に、この質問をする。そういう時のラークの瞳は、いつも暗くて冷たい。
「……そうじゃないよ」
実際、ラークが来てくれるのだから、ラークに会えるのだから、僕はここにいるのが嫌じゃない。
「では、何故泣いてるんだ?」
「……」
「教えてくれ、オリビア」
「……どちらかといえば、逆だよ」
「逆?」
僕の言葉に、ラークが不思議そうな顔をして、首を傾げた。
「僕は食べ物だと思われていてもいいから、ずっとラークのそばにいたいんだ。恋人じゃないっていうのは、もう分かってる。それでも、僕はラークが好きなんだよ……だから……なんていうか……辛くて。ラークのことを考えてると、辛いんだ。ラークは、好きじゃないけど、僕にしか味がしないから、好きでもないのに僕に触るんでしょう? ハハっ、そう考えると、ケーキに生まれてきて、良かったよね、僕は。うん……うん……」
僕は泣きながら笑った。本当は涙を止めたかったけれど、止まってくれなくて、それでも無理に笑ったせいで、自分でも酷い顔をしている気がした。ラークは虚を突かれたように息をのんでいる。それから大きく二度瞬きをすると、僕を見て本当に不思議そうな顔になった。
「俺はお前を食べ物だなんて思っていない。どういうことだ?」
「? だって……朝晩、食事の時しかここに来ないし」
「それは……――お前との接触を最低限にすることで、これ以上嫌われないようにしようと思っただけだ」
「え?」
「俺であれば、自分を食べ物のように扱う相手など、嫌いになる。それでも俺は、お前が好きだから、これ以上嫌われたくないと思って、なるべく余計なことをしないようにと思っていたんだ。俺がお前なら、俺の顔を見るのも嫌だろうと思ってな」
「どうして? 僕はラークが好きだから、ずっと好きだったから、一緒にいたいのに……」
ともだちにシェアしよう!