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第17話 レンタルスーツ
「兄ちゃん! おかえり」
「ただいま。思ったより遅くなった。先に寝てて良かったのに」
良かった。舟を漕ぎながらもなんとか起きていられた。
キッチンの側のテーブルで、俺は兄ちゃんを待っていた。この日は兄ちゃんの知り合いの結婚式があって、二次会まで行くから遅くなるよ。と言われていたのに。
「帰って来るまで結局寝られなかった」
「そっか。風呂入ろうかな。タバコの臭いがすごい」
兄ちゃんはそう言って、靴を脱いだ後もらってきた小さいくたびれた花束をテーブルに置き、スーツの腕あたりをくんくんと嫌そうににおった。
「……兄ちゃんかっこいい」
「そう? 滅多に着ないからな、スーツなんて」
「うん……」
思わず見惚れてしまう。今日の参列者達が羨ましい。こんな姿の兄ちゃんを、昼過ぎからずっと見ていられたなんて。
「着替えてくる」
「一緒行く」
「なんでだよ」
機嫌のいい兄ちゃんの後に付いて、兄ちゃんの部屋に入った。兄ちゃんがスーツの上を脱ぐ。俺はそれを強引に奪って、自分に被せた。
「レンタルだから。汚すなよ」
「うわ、ぶかぶか」
袖の長さがちっとも合っていない。背の高い兄ちゃんには似合うけど、俺が着るとサイズの合っていない背伸びした子ども服みたいになってしまった。
「もうすぐ背、伸びるよ」
「だといいけどー……」
「はー。窮屈だった」
兄ちゃんがどすんと後ろのベッドに腰掛ける。ネクタイの結び目をその綺麗な手でゆるりと解いた。
「……どうだった? 結婚式」
その滑らかな指の動きを追ってしまう。
「ん? どう……。んー、二人とも幸せそうだった」
「……」
ニコリと俺に微笑む。兄ちゃんの鈎 にした指が何度か下向きに左右に動かされ輪を大きくさせていって、ネクタイがその役目を終えようとした。
「あっ、あと料理が美味かった。俺明日何もいらないかも。さすがに食べ過ぎたな」
「へぇー……」
しゅる。とネクタイが兄ちゃんの胸の前で二つに分かれた。
「兄ちゃんも、いつか結婚すんのかな」
「俺? さぁ……どうだろ。相手がいないことにはな」
「相手……」
俺は、その時兄ちゃんに祝福の気持ちを抱けるのだろうか。正直にそう思った。
「……」
俺はスーツを着たまま、兄ちゃんの前に跪き見上げた。
「ん?」
「兄ちゃん……」
膝を床につき背伸びをして両手を兄ちゃんの顔に沿わせた。ずる、と着ていた大きすぎるスーツの袖が落ちる。じっと目を見て少しだけ閉じて、自分の唇を兄ちゃんのに合わせた。いろんなものが混じったにおいがする。特に、タバコのキツい臭い。
「……奏。これ、返さなくちゃいけないから」
「少しだけ……」
「……」
普段は髪のセットなんかしない兄ちゃんが、今日はめかし込んでいる。くん、と鼻を頬に寄せると、固めたムースの花のような匂い。きっちり他所行きの格好をしている兄ちゃんに、俺はひどく欲情した。兄ちゃんの首元に両手を近付ける。
「……奏」
「汚さない。汚さないから」
両手をするりと兄ちゃんの胸の前まで滑らせた。ぷち、ぷち。と真っ白なカッターシャツの小さなボタンを一つずつ外す。肌着を着ていない兄ちゃんの素肌が少しずつ俺の眼前に晒されていく。鍛えてるとこなんて見たことないけど、兄ちゃんの躰はきれいに引き締まっている。それをみるのが、すごく好き。
ボタンをへそ上まで外して、俺はカッターシャツを左右に割り開いてくしゃっと握った。
「……っ」
兄ちゃんの肌に顔を寄せ、すん、とそこで一度息を吸う。感じられるのは、さっきからしてるタバコの臭いと、少しだけ食べ物のにおい。そして、兄ちゃんの時間の経った汗の匂い。はぁ、と息を逃してまた胸いっぱいに兄ちゃんが纏う空気を鼻から吸い込む。寒さに震える時のように、体がブルッとなった。
「……奏。ストップ」
「やだ……」
「……はぁ。ダメだって。俺風呂にも入ってないから。暖房効いてて汗かいてるし」
「いいよ。このまま、しよ。したい」
「いいよって……ダメだよ」
俺の好きな、兄ちゃんの困った顔。俺はそれに構いもせずスルスルと兄ちゃんの皮膚の上を唇を使って滑らせた。
ほんの少し、ぺたっとしている。いつもの風呂上がりではない、兄ちゃんの肌。時間の経った汗のその香りが、色を付けて匂い立つように俺の嗅覚を満たした。
「はあぁっ……」
興奮、する。
フェロモンって本当にあるんだ。そう思わずにはいられない。俺を引き寄せる匂いが、兄ちゃんから放たれている。何度も何度も深呼吸する。身震いが止まらない。
「ふうっ……」
カッターシャツに皺が残るほど握りしめていた俺は、兄ちゃんの手を重ねられてやっと正気に戻った。
「奏。もう、いい?」
「兄ちゃん……ごめん、勃った。俺……」
「……せめて風呂入らせて」
「ううん。このまま。このままがいい……」
「……おい」
カチャカチャとスーツ下のベルトに手をかける。はぁはぁと上がる息が止まらない。兄ちゃんの顔も見れずに俺は兄ちゃんのズボンをくつろがせた。
「いい。このまま、させて」
「ちょ……」
やっぱり。兄ちゃんも興奮してきてるじゃんか。
「な、舐めるだけでいいから……ね。舐めさせて。兄ちゃん」
下着の中に手を滑り込ませる。ふっくらと形を主張するそこを、中と外から撫でた。
「んっ……。汚いって……奏」
「……」
俺は下着からはみ出したそれが愛しくて、つい先端だけをぺろっと舐めた。
「んっ」
「はぁっ……ぬ、脱がせて、いい」
「……」
言うことを聞かない俺にやっと観念したのか、兄ちゃんは両手を後ろについた。兄ちゃんが腰を少し上げて、俺はその隙間に沿うようにズボンと下着をずり下ろした。兄ちゃんが片足を上げて片っぽだけ脱ぐ。俺は全部脱がせるという余裕もなく、現れたそれに顔を近づける。ムワ……と湧き立つような雄の匂い。俺ははしたなく鼻を鳴らして、過呼吸さながら懸命に息を吸った。
「奏……ほんと……恥ずかしい、から」
「兄ちゃんだって俺が恥ずかしいって言ってるのに四つん這いにさせたじゃん」
「お前……あれは」
思わず早口になってしまった。でも兄ちゃんが言うことなんかどうでもいい。早く、早く目の前のこれを口に含みたい。
べろべろと、舐めたい。
「はぁ……んっ」
「か、かなで」
ちゅっと口づけると、少ししょっぱい。いつもこれが俺の中に入っていると思ったらやっぱり中が切なくなる。それを悟られないように、俺は舌をべえと出して兄ちゃんの先っぽの形に合わせた。
「うっ……」
手を軽く添えてビクビクと脈打つ兄ちゃんのをべろっべろっと舐める。
「はあっ……はっ……」
ああ、ダメだ。これだけで、俺は。
「んっ……兄ちゃん。気持ちいい?」
「……うん。情けないけど」
「ふふ。俺、少しは上手くなったかな……」
俺のパジャマのズボンがむくりと形を現した。兄ちゃんのを舐めてるだけでこんなになるなんて、俺の方が情けない。
「ん……奏。んんっ……」
兄ちゃんが、俺を見ながらぎゅっと顔をしかめた。ピクッと反応されると、嬉しくなる。兄ちゃんの顔がだんだん上気立ってきて、俺はぱくりとそれを咥えた。
「あっ……」
兄ちゃんのって、やっぱりデカい。できるだけ大きく口を開けても全部飲み込むなんて無理だ。
俺は口を窄めながら舌で兄ちゃんのを舐め回した。
「くっ、うっ……」
時折先走りが生まれて、それも全て舐め上げる。俺が飲み込んで体内に入って、兄ちゃんのと一緒になると思うと頭がぼんやりなりそうだった。
「ンッ、ンッ」
じゅぼ、じゅぼ。と卑猥な音が立ってしまう。でも止められない。兄ちゃんが感じてくれているのと、口でされる気持ち良さを知っている俺はその反応に嬉しさでいっぱいになった。
「ンンッ、ンムッ……」
「うっ、奏……」
兄ちゃんが背を丸くして俺の肩に両手を置いた。裏筋の体液がしきりにビュルビュルと移動している。
出そうなのかな。……飲みたい。兄ちゃんの。
俺は兄ちゃんの根本をきゅっと下に引きながら握って、ちゅぼちゅぼと何度も顔を往復させた。兄ちゃんの手に力が入る。
「あ、奏……で、出そう」
「……っ、……」
「離せっ」
ぢゅくっ、ぢゅくっ。
「くち、離せって。……うっ……出る……!」
「……っ!」
びゅるっ、びゅるっと何度か射精が続いた。俺はそれが終わるまで口を離さず、ゆる……ゆる……と兄ちゃんのを優しく手で扱いた。
「バカ……はあ、はあ……」
「……」
ずずずっと吸いながら兄ちゃんのから口を離す。兄ちゃんがテーブル上のティッシュを取ろうとしてくれた。
ごきゅり。
「ほら。出せ」
「……飲んじゃった」
「は? ……はぁー。奏。そんなことするな」
「どうして」
口の中がねっとりと粘ついている。それを舌を使って丁寧にまた舐めて飲み込んだ。
これが、兄ちゃんの匂い。これが、兄ちゃんの味……。
「……汚いから」
「……ごめん。今日だけ。俺すごい興奮しちゃって。つい」
「……ったく」
「ごめんね」
兄ちゃんのが俺の消化器官に入ってきたと思うだけでまたムクリと欲が湧いた。
「風呂入って来るよ」
兄ちゃんが下着だけ履いて、カッターシャツを肌けさせてそう言った。
「うん。兄ちゃん疲れてるよね。俺ももう寝るよ」
「……ん。歯磨きちゃんとしろよ」
「わかってるよ。いつまで子どもなんだよ、俺」
「言わないとしない時あるだろ」
「へへ。する、する」
兄ちゃんと喋ってたら、やっと自分のが落ち着いてきた。
「じゃあね、兄ちゃん」
「ん。おやすみ」
兄ちゃんにおやすみを言って自分の部屋へと入りベッドに倒れ込む。俺はズボッと下着の中に手を入れた。
「んっ。ん、くっ……」
じゅこじゅこじゅこじゅこっ。
「っ。う……うっ」
目を閉じたら兄ちゃんのあの顔が浮かんできて、辛い。シン、となった部屋で耳を澄ますと兄ちゃんが吐く吐息がこびりついたまま離れない。
じゅくじゅくじゅくっ。
「はあっ、はあっ」
ごくっ。と唾を飲むとさっきの味が思い出されて、全身に鳥肌が立った。
『奏』
「うっ……!」
兄ちゃんに、俺の名前を呼ばれた気がして、あっけなく、はしたなくも後先考えずに下着の中に吐精した。
「はぁ、はぁ……」
兄ちゃん。兄ちゃんのことが好きで、ごめん。兄ちゃんのことになると冷静になれなくて、ごめん。
「兄ちゃん……」
好きだよ。兄ちゃん。
俺はぐちゃっとする下着を脱いで、丸めてベッド下に置いた。ズボンだけ履いて、仰向けになった。ぼーっと天井のシミを見つめていたら兄ちゃんがシャワーを浴びてる音が耳に届いて、うっとりと瞼が重くなって眠くなってきてしまった。
兄ちゃん、好き。兄ちゃん、言うこと聞かない弟で、ごめん。
「……、……、……」
でもあのスーツは、兄ちゃんに言われた通り少しも汚さなかったな。
俺はそう思いながら、兄ちゃんを待っていた間の睡魔を呼び戻し、だんだんと呼吸を深くしていった。
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