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第21話

「――私は一万もってこいっていったんだけどなァ」 「いやあ、お財布おいてきちゃったんで」  九時五十九分。俺は白柳のマンションにたどり着いた。うっかり財布をホテルに置いてきてしまったので、ホテルから二駅分くらいの距離にある白柳の家まで走ってきた。ぜえぜえとぶっ倒れるのではないという勢いで白柳宅の扉を開けた俺に、やはり白柳さんは優しい言葉をかけてくることはなかった。  白柳に渡したのは、オジサンからもらった新幹線のチケットだ。まあ……チケット屋で換金してもらえれば一万円くらいになるだろう。 「っていうか何、東京行き? これ何?」 「これもういらないんで、どうぞ」 「いやどうぞって、だから一万円よこせっての!」  俺は喧々としている白柳さんを見て、妙にほっとした。いつもどおりだ。変に前と違う態度をとられたら、少し困ってしまう。  ただ――ちょっとだけ、期待してしまう。一応感動の再開なんだし、ちょっと甘いことを囁いてくれてもいいんじゃないかって。 「白柳さん、あのぉ」 「は? 今更そのぶりっこ口調で話しかけられるとキモイんだけど」 「ちょっ、せめて話の内容聞けよ!」  白柳さんは俺を中に入れると、扉を閉めた。しかし相変わらず人相が悪くて笑ってしまいそうになる。ここ、愛おし気に見つめてくれてもいい場面なんだけど。 「あの! 俺、新しい仕事探さないとだから、それまでお世話になります!」 「えー? クソニートの世話いやなんですけどォ」 「ニートは仕事を探す気のない人に使う言葉ですよ、白柳さん」 「うぜえ黙れ」  白柳さんは壁によりかかりながらため息をついていた。  そう、俺はブレッザマリーナをやめたので、今は無職。ついでに荷物も全部おいてきたから一文無し。寝泊まりするところがないので、白柳さんの家に居候したい。昔と状況が変わらないといえば変わりないけれど、一応俺は自立する意思がある。 「で、返事は? イエス? ノー?」 「ノーとは言ってねえ」 「イエス?」 「……」 「言ってよ、白柳さん!」  白柳さんは疲れたように額に手を当てて、「あー」なんて言っている。かすかに耳が赤いにのが見えて、どきっとした。  白柳さんがちらっと俺を見る。そして、俺の顎を掴んで――唇を奪った。 「――勝手にしろ、翼」 「……はいっ、」  白柳さんは言い捨てて、俺に背を向けて奥に行ってしまった。今度は両耳が真っ赤だ。  ――ああ、白柳さんのこと、すごく好きかもしれない。  期待していた優しさもくれなくて、かけてくる言葉は乱暴で、そして思った以上の照れ屋。正体のわからない、暖かな感情が胸の中に沸いてくる。  空を飛べる、兆しを見た。白柳さんに「翼」と呼ばれ、俺は脚が軽くなるのを感じる。 「白柳さん! 今日のご飯なんですか!」 「……っていうか食費も俺持ちなのか! カレーだよカレー!」 fin

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