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第1話【約束】
「蓮…ボクがずっと側にいるから、そんなに泣かないで…」
「…本当?…約束してくれる?」
「本当だよ。約束する。ずっと一緒にいる。絶対に離れないよ」
お母さんが亡くなっていつまでも泣いている蓮に、どうにか泣き止んで欲しくて、そんな約束をした。それは小学生の時だった。
あれから、もう何年も経ちオレ須藤千秋(すどうちあき)と神野蓮(かみのれん)は高校生になった今でも、同じ高校でいつも一緒だ。
今では大手企業の社長である蓮の父親と、その秘書であるオレの父親、2人揃って家を空けることもあるため、ここ数年は蓮の家で一緒に暮らしている。朝から晩まで一日中一緒にいるのだ。
所詮、小学生の時の約束だが、それだけでここまで一緒にいる訳ではなく、少なくともオレは約束以上に蓮のことが好きだから一緒にいるのだ。
高校生にもなれば彼女ができたり、付き合う友達が変われば自然に距離ができると思っていた。その時は蓮の幸せのため自分にできることをしようと思う。たとえ、それで一緒にいられなくなったり辛い思いをしようと最優先は蓮だ。将来、大会社を背負って立つ蓮にこの気持ちを伝えようなど微塵にも思ってはいない……
今のところ蓮が部活でいない時以外は大抵一緒にいた。
小さい頃は体も小さくか弱い男の子だった蓮も今ではバスケ部エースで体格が良く女子からは人気があってモテモテのイケメンになった。
オレはと言えば、背はそこそこ大きくなったものの体格は細身で本を読んでいることが多い。自分で言うのも何だけどモテモテイケメンの蓮に比べると少ないが優しい雰囲気のあるオレもそこそこ人気はあるのだ。
「じゃあ、オレ朝練行ってくる」
「おう、頑張れよ」
そう言って体育館の方に行く蓮を見送って教室へ向かう。それがいつものパターンなのだが今日は違った。
蓮を見送ってシューズに履き替えようとした時、シューズの上に封筒があった。中を見ると『突然ごめんなさい。お話があるので図書室に来てください』とあった。誰からかは分からないがとりあえず向かう。
図書室に入るとクラスは違うが男子の中では人気の女の子がいた。
「突然呼び出してごめんなさい。」
「あー別にいいけど、どうしたの?」
「千秋くんにお願いがあるの…」
「…何?」
「あの、私!同性愛者で…」
「・・・」
「その…千秋くんに恋人のフリをして欲しくてっ」
「・・・え?どう言うこと?」
「もし付き合ってる人とかがいなかったらでいいんだけど…」
「ちょっと訳が分からないんだけど」
泣きそうになりながら必死で話そうとしている彼女は上手く話せないでいる。
「そのっ…」
「うん。落ち着いて。ちゃんと話聞くから。時間もまだあるし」
「私、その女の子が好きで…誰も知らないから仕方ないことなんだけど男の子から告白されたり、それを女の子に揶揄われるの辛くて…」
「あーそれで誰かと付き合っていれば告白されることも揶揄われることもなくなる。そう思ったってこと?」
「そう。千秋くんとそこまで仲良い訳ではないけど他の男の子より信じられそうと言うか…」
「そうだね。そんなに仲良くないし話したこともあんまりないよね。もしオレが周りに言いふらしたらどうするの?」
「…そうだよね…急にこんなことごめんね。もう付き合うふりしてとか言わないから私が同性愛者だってことは誰にも言わないで…ください」
それだけ言うとその子は出て行ってしまった。
オレ、ちょっと嫌なやつだったかな…と思いながら図書室ってあまり来ないけど静かで落ち着く所なんだなとしばらく本を読んで教室に向かうと蓮も部活が終わって教室に向かってるところだった。
「蓮、朝練お疲れ」
「おう、千秋何してたの?鞄持ったままじゃん」
「ちょっと、図書室に行ってた」
「そっか。にしてももう秋なのに暑い」
「運動部だけだよ、そんなこと言ってんの」
タオルでガシガシと汗を拭く蓮に笑いながら言うとそうかなーと笑って返してくる。
図書室は嘘ではないけど、事情は言わなかった。そんなことがあったことすら蓮と話しているうちに薄れて行った。
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