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第2話【性的なこと】
本格的に寒くなってきて、教室のベランダに出て冷たい空気を吸っていた。冬の冷たい空気は心地よくて好きだ。
ケラケラ笑い声が聞こえて、そっちを見ると蓮がいた。マネジャーの女の子と冷たい水で汗だくのゼッケンを洗っていたのだ。冷たいだの寒いだの言いながら楽しそうにしている二人を見る。
そんなオレを見てクラスメイトが話しかけてきた。
「あの二人最近怪しんだよなー」
「…?どう言うこと?」
「いや、付き合ってるんじゃないかって噂」
「へーそうなんだ」
「なんだよ千秋は何も聞いてないの?」
「何も聞いてないね」
「まだホヤホヤなんかなー」
「どうだろうねー」
世間話程度に話して教室に入った。
蓮、あのマネジャーと付き合ってるのかな…まぁ、そうだよな…今まで彼女がいなかったのがおかしいくらいだよな…モヤモヤするこの気持ちを無理やりないことにした。
蓮の部活以外の時間は変わらずオレといたが、マネジャーとすれ違うと笑顔で話したり揶揄ったり、そんな仲の良い二人を見たくなくてその場から離れたくなる。
…あの噂はやっぱり本当なんだ…気になるところだけど蓮に直接聞けない…
今日は用事があるから先に帰っていいと言われて、いよいよオレといることより優先するものができたのかと見えない何かに覚悟した。あんな約束をいつまでも意識しているなんて…バカみたいだ…
家でテレビを見ていると蓮が帰ってきて、そのままオレの横に座る。
「恋愛するのも大変だよなー」
「…どうしたの?いきなり」
「いや、こっちの話なんだけどさ、一緒にいて楽しいならそれでいいじゃんね」
「そうだね。でも、友達よりも深いところで繋がりたいから恋人になりたいんじゃないかな?」
「…千秋もそうなの?」
「何でオレの話になるんだよ…んーでも、そうだね…好きな人とは…友達とじゃしない色んなこともしたいかな」
「例えば?」
「例えばって…だから、友達とじゃしないことだよ」
「具体的に言わなきゃ分かんないだろ」
「……せ、性的な事だよ」
「それって、何もしなくても一緒にいる事より重要か?」
「わ、分かんないけど…好きな相手には触れたいって思うんじゃない?そうゆー事が恋人同士には必要なんだと思うけど…俺もよく分かんないや…」
「そうなのかな……あーオレ風呂入ってくる」
「うん。ご飯作ってるよ」
「おう、ありがとう」
それからも部活以外はオレといるけど、あのマネジャーの存在がチラチラしてる。移動教室などですれ違う時は相変わらずお互いに声かけるしメッセージが来たり、たまに電話したり…もう絶対付き合ってんじゃん…何でオレに付き合うようになったって言わないんだよ…そしたら少しは諦めもつくしモヤモヤも改善するかもしれないのに。
自分から聞いてしまえばいいのに、それができずにまた嫌になる…
蓮が部活に行った後、図書室に本を返しに行くと、あの時の女の子が図書室前の階段で告白されているところだった。ごめんと断っているのに相手の男は納得いかない様子でしつこく理由を聞いている。それに対し女の子はごめんなさいと何度も謝っていてかわいそうだと思ってしまった。
そう思ってしまったら体が勝手に動いて、彼女を後ろに隠すように相手の男の目の前に立っていた。男は慌てていたが何でいきなりお前が?と言う顔をする。
「オレの彼女に何か用か?」
「彼女?彼氏がいたのかよ!」
「オレが黙っているように言ったから言わなかっただけだ。お前に何の関係があるんだ?」
「…何だよ!」
そりゃー怒りたくもなるよな…いきなり彼氏登場だもんな…男が行ってから彼女を振り返ってみると泣きながらお礼を言っていた。それを見ていた野次馬がいたけど何も気にすることはなかった。
女の子の名前は黒木由佳。
由佳とは助けたことをキッカケに話すことが増えた。このまま、しばらく恋人と言う設定で一応連絡先も交換した。もちろん、デートなどはしないし電話もしないが、たまにメッセージのやり取りはするようになった。
俺が蓮を好きだと言うことも話した。他人には絶対言わないことでも、由佳とは同性愛と言う共通点があって、お互いに秘密にしていることだから言えたのかもしれない。この気持ちを誰かに話せることは、少し気持ちが楽になって、理解してもらえると言う安心感もあった。
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