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第14話【蓮 熊本】

「明日からゴールデンウィークだね。課題今日中に終わらせようね」 「今日中って…今バイト終わってもうすぐ21時だぜ?無理じゃね?」 「寝なければ今日だよ。だから頑張れば出来るって」 「こえーな」 「先に終わらせておけば、あとが楽でしょ」 課題がある時は、出来るだけその日のうちに終わらせるのが千秋だ。一緒にすることが多い健も必然的にそうなるのだ。 そんな、たわいもない話をしながら、千秋の家に向かっていると、アパートの下に一人の男がいた。蓮だ。蓮が千秋と呼び止めると同時に、千秋は健の手を取り蓮の目の前を素通りして行こうとすると、蓮も千秋の腕をつかみ強制的に止めた。 「千秋、話がしたい」 「俺には、話すことなんてないよ」 「お願いだから!俺の話を聞いて欲しい!」 「嫌だ。今更…何も聞きたくない」 蓮の手を振り解いて、部屋に入る。 「……」 「千秋…大丈夫か?」 「健…お願い。突っ込んでくんない?」 「は?何?」 「健の俺に突っ込んでよ…何もかも忘れさせて欲しい…」 健のベルトを外している千秋の手を取って、健は千秋を抱きしめた。 「お前はっ何やってんだよ」 「ね、健、お願いだから」 「ごめんな?俺は、気持ちいいセックスしかしない。知ってるだろ?」 「そうだけど…」 「お前は痛みが欲しいんだろ?痛みはあいつだろ…?でも、痛みを感じればあいつを忘れられない」 「……」 「あいつと一度話してきな。その後で、お前が望むなら俺の持ってる全てのテクニックで気持ちいいセックスをしてやる」 「…ふ、なにそれ」 「少し笑えたか?」 「うん。でも…」 「俺は、帰って課題進めとくから」 「健…」 「千秋、大丈夫。なんかあったら連絡しな。いつでも来るから」 「…分かった」 健を見送り、蓮を部屋に入れる。 千秋は部屋に入るなり、バイトする前に橘さん相手に練習した時のローションをサイドテーブルに置いて、ベットにうつ伏せで横になった。 「…千秋?」 「早くして」 「…何を?」 「俺たち最後の方は、これしかしてないでしょ?終わったらすぐに出て行ってよ」 「…千秋、ごめん…そんなこと…もう、しないから」 「いいから、こんなとこまでわざわざ来るなんて…そんなによかった?俺の身体」 「…千秋…本当にごめん…」 「さっきから、そればっかじゃん」 「……っ、さっきの男ともやったのか?」 「ははは…最低だね。仮にやってたとして、蓮に関係ないでしょ?」 「……」 何も言わない蓮を見て、テーブルの前に座る。立っていた蓮も反対側の千秋の前に座った。 「話あるなら、早く話して」 「…千秋、ごめん…たくさん傷つけたこと本当に悪いと思ってる」 「許す許さないで終わる話なら、許すよ。だから、二度と俺の目の前に現れないで」 「…千秋…俺の側に戻ってきてくれないか」 「…無理だよ」 「千秋がいないと生きていられないっ」 「そんなことない…結婚して家族が出来れば、俺のことなんて…」 「結婚…?無理だ」 「……だけど、俺にはどうすることも出来ない」 「側にいてくれるだけでいいんだ」 「だから、それは俺が無理だって」 「さっきのやつと付き合ってるのか?」 「だったら何?」 「……」 「さっきから何なの?」 「…嫌だ。千秋が誰かのものになるなんて。俺の側にいて欲しい…はぁっ…はっ…はっ」 「?蓮?」 「…はっ…はっ…」 「…もしかして、過呼吸になってる?」 「はっいや…だっ」 「ちょっと待って」 過呼吸の対処分からない。健に電話して来てもらおうと携帯を持った時、蓮が上手く話せないのに呼ばないでと必死で訴えてくる。 蓮の後ろから抱きしめるようにして、大きく呼吸をさせる。俺にもたれ掛からせて、できるだけ優しく大丈夫だと声をかける。倒れないように支えていた俺の手を蓮は細く冷たくなった手で握った。 手だけではない…身体全体が痩せ細り目の下にはクマ、髪の毛も伸びていて、以前のキラキラしていた蓮ではなくなっていた。 少しして落ち着いたら蓮は振り返って、千秋を抱きしめる。 「千秋…離れるなよ…」 「…少しは落ち着いた?」 「…うん」 「蓮…俺はもう、側にいることは出来ない…蓮の側にいると辛いんだよ」 「…俺があんなことしなかったら…今でも俺の側にいてくれたか?」 「…いや、遅かれ早かれ、俺は蓮の側を離れたと思う」 「なんでだよ…」 「男同士だからだよ…俺か蓮のどちらかが女の子だったら側にいたかもしれないね」 「じ、じゃあ、俺が女になるから」 「何言ってんの?」 「そうすれば、千秋はずっと俺の側にいてくれるんだろ?俺が女になれば…」 「女になるなんて…そんな簡単なことじゃない」 「でも…」 「それに、そんなことしたら、蓮じゃなくなっちゃうじゃん。時々可愛い蓮もいいけど、みんなの目を引くようなカッコいい蓮でいて欲しい。俺は男の蓮と一緒にいたんだから。約束は守れなかったけど…ごめんね」 「千秋がいないと無理だ…」 「俺は今、さっきいた健が側にいてくれるから何とかこうして生きてる。そう言う人が、きっと蓮にも見つかるよ」 「他の誰かはいらない。千秋がいい…もう二度とあんなことしないから…」 「小さい頃の約束に執着してるだけで、俺たちの間には何もなかったでしょ?時間が経てば俺なんて忘れるよ」 「何もない訳ない…」 「…とにかく、無理だから…」 「…じゃあ、この連休だけでいいから一緒にいて…?」 「…分かった」 あの頃と変わらない笑顔で喜ぶ蓮だったが、安心したのか今は眠っている。 健には電話で事情を話して、課題はそれぞれですることになった。

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