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8:連戦×連勤=疲労

「あぁぁっ、もう!矢の残りも少ないってのに!」  俺は素早く弓を構えると、周囲を取り囲むモンスターの数と位置を確認した。  空中に三体、そして地上に六……いや。 「八体って……多すぎだろ!」  念のため背中の矢の数を確認するが、これまでの戦闘のせいで使える矢は全部で五本しか残っていない。この数では逃げるのも難しい。 「クソっ、どうしろってんだよ!」  しかし、悩んでいる暇はない。ともかく、動きながら考えるしかないのだ。  俺は、地上の敵から距離を取りつつ、空中の敵から狙いを定めた。ただし、ターゲットにばかりも集中していられない。  地上のモンスターの位置取りや動きを同時に把握しつつ、浅い呼吸の合間に弓を三本連続で打ち込む。 「ふーーっ」  結果は見なくとも分かる。というか、仕留め切れていなかったらそれで終わりだ。もちろん、この俺が!  直後、空中に居た敵が、地面に落ちる音が聞こえた。 「っはぁ。っよし!あとは……地上の敵だけか」  とは言っても、それがあと八体も居るのだが。 「っはぁ、っはぁ……はぁっ」  汗が額から流れ落ちてくるのを感じた。一瞬、敵が霞んで見えた。矢を放ちながら、フィールド上の全方位に気を張り続けるというのは、かなり神経を摩耗するのだ。  これは、感覚的に二十連勤を超えたあたりの疲労と似ているかもしれない。正直、今日は連戦に次ぐ連戦で、シンドくて仕方がない。 「きっつ」  ただ、そうも言ってはいられない。なにせ、まだ敵は残っているのだから。 「矢は……残り、二本か」  コイツらを全滅させる方法は、敵に打ち込んだ矢を回収しつつ、残り一体まで数を減らすしかない。そうすれば、最後は俺のナイフでもどうにか倒せる。 「だったら、まずは矢を回収しないと」  手持ちの矢が少ない今の状態は、あまりにも危険だ。俺はフィールド上の敵を確認しつつ、矢の回収に向かうため勢いよく地面を蹴った。 「よしっ、まずは一本回収して……」  そう、俺が敵の死体から矢を抜こうとした時だった。 「ちょっ!抜けねっ」  ちょうど骨に引っかかっているのか、思ったように矢が抜けない。  そして、こういう一瞬の行動の遅れが、戦闘の中では文字通り「命取り」になる。特に、仲間の居ない「ソロ」での戦闘とならば尚の事。  グルルルルゥッ! 「っ!」  気付けば、数体のモンスターが俺の眼前まで迫ってきていた。高鳴る心臓の音が、妙に存在感を持って体中に響き渡る。  あ、終わった。  本日三度目となる、死の覚悟。  しかし、今回もその覚悟はアッサリと覆えされる事になる。 「っぅ!」 「っへ!?」  いつの間にか、壁のような大きな背中が視界を覆っていた。同時に、モンスターの唸り声が一枚の壁を隔てた向こう側から聞こえてくる。 「お、お前……!」 「あ、あの。だ、いじょうぶ?」  こちらを振り返る事なく、たどたどしく口にされる言葉。 「いや、それはこっちのセリフなんだが!」 「え?」 「え?じゃねぇし!ちょっ、お前大丈夫!?」  俺を敵から守るように立ちはだかった戦士は、腕や体を複数のモンスターから一斉に攻撃を浴びていた。 「ど、どうしたらいい?」 「……いや、どうしたらいいって」  ただ、相手の言葉を聞く限り、まったくダメージは通っていないようだ。鎧も盾もボロボロなクセに、ともかく頑丈なヤツだ。多分、俺だったらひとたまりもなかっただろうに。 「はは。なんか……スゲェな」  その、あまりにもぶっ飛んだ状況に、俺は戦闘中にも関わらず笑ってしまっていた。  敵と自分の間に一枚の壁が出来た。たったそれだけの事で、これまでにない程の〝安心感〟を覚えてしまっていたのだ。 「なぁ、お前さ。俺のこと……守れるか?」 「守れる」  これまでにないほどハッキリと口にされたその言葉に、俺はそれまで引き抜けなかった矢を、一気にモンスターの死骸から引き抜いた。そして、戦士の背後からすぐに弓を構える。 「よし、じゃあ、俺が敵を倒すから。ともかくお前は俺を敵の攻撃から守ってくれ!」 「ん」  短い返事を聞いた瞬間、こちらに走ってくる敵に向かって矢を射た。もちろん、それは敵の急所を一気に貫く。 「っし!」  あぁ、いいっ!  ターゲットにだけ意識を集中出来るって最高にラクだ。俺は滾るような高揚感を腹の奥底から感じつつ、矢を回収しながら次々に残りの敵へと矢を撃ち込んでいった。  戦士の方を見ると、俺の動きに合わせて敵を引き付けてくれている。その動きが絶妙で、俺は思わず笑みが漏れた。 「当たらなくてもどうにかなるって思えるの、いいな」  もし攻撃を外しても、アイツが俺を敵の攻撃から守ってくれる。そう思うと、肩の力が抜けた。 「……これは、外す気がしねぇわ」  その瞬間。俺は、まだ名前すら知らないあの戦士に、完全に自分の命を預けきっていた。 「よしっ、あと一体!」  とうとう残り一体となった敵を前に、俺は腰の短剣に手をかけようとした。しかし、ふと、思ってしまった。 「おいっ!お前、その最後のヤツ!さっきみたいに盾で倒せるかっ!?」  そういえば、コイツ。剣は持っていなかったけど、あの盾一つでドラゴンの頭を叩き割ったのだ。こんな雑魚モンスターくらいなら、きっと一撃でいけるんじゃないか。  そう思って軽く口にした言葉だった。すると、次の瞬間。  ゴンッッ! 「は?」  激しい殴打音と共に、グチャッという嫌な音が俺の鼓膜を揺らしていた。  そして、戦士から一言。 「たおせた」 「……そ、そうみたいだな」  ボソリと呟かれたその言葉通り、最後の一体は戦士の盾によってモンスターの体は見事にぺしゃんこに潰されていた。詳細に表現するとグロいのでこれ以上は言及を避けるが、周囲にムワリとした血の匂いを漂わせるほど、その死体は酷い有様だった。 「マジかー」  盾って、ガチで攻撃も出来るんだ。そんな事を思っていると、戦士が甲冑をカチャカチャと鳴らしながら、俺の方へと駆け寄ってきた。  その姿は、モンスターの凄まじい返り血を浴び、酷く禍々しい見た目の割に、どこか無邪気な子供のようだった。

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