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19:使い魔だから許される。相手が十代でも
セイフの「俺はテルの使い魔になる!」という、必死の従僕発言からしばらく経った。
俺達の聖王都までの旅は、難航を極め……という事は一切なく、驚くほど順調に進み……正直、順調過ぎてあと少し、という所にまで迫っていた。
まぁ、それもだいぶ前からなのだが!
「セイフ、ちょっと欲しいアイテムがあるから、沼地のダンジョンに寄ってもいいか?」
「ん」
本当ならば、とっくの昔に聖王都についてもおかしくないはずなのだ。ただ、到着してしまうと、俺は色々と決断しなければいけない事になる。
セイフとパーティを組むのか。それとも、その場で、セイフに預けていた盾を売却して別れるのか。
「はぁ、何やってんだ。俺は」
そう、本当はすぐにでもセイフとパーティを組んでもいいはずなのだ。しかし、色々考えて日和っては、ずっと二の足を踏んでしまっている。
「人生二度目にして、こんな十代みたいな悩み方をするとは……」
まぁ、肉体年齢的に十代で間違ってはいないのだが。だからと言って、頭の中まで十代に逆行していいワケじゃない。俺は良い大人だ。しっかりしないと。
「テル?」
「あ、いや。なんでもないよ」
「……ん」
そんな俺の思考を分かっているからだろう。セイフは何も言わない。ただ、黙って俺に付いて来てくれる。
それこそ、まるで使い魔のように。
「そんな事より、セイフ。さっきの戦闘で怪我しただろ。次行く前に薬を塗ってやるから、鎧を脱げ」
「……なんで、わかるの」
「俺はずっとお前の事を見てるからな。気付かないワケないだろ」
「……」
「怪我したら言えっつってんのに、全然言わねぇし。だったら、俺が気付いてやった方が早いからな。ほら、早く」
俺が畳みかけるように言うと、セイフはカチャカチャと鎧を脱ぎ始めた。以前は、なんだかんだ「怪我していない」と言い張っていたのに、最近は指摘さえしてやれば、素直に鎧を脱ぐようになった。
「少しヒヤっとするからな」
「ん」
と、ここにきて、俺は上半身を露わにしたセイフの姿にゴクリと唾液を飲み下した。俺が脱げと言った癖に、妙に緊張する。やっぱり、最近俺は変だ。
セイフの視線を感じながら、ゆっくりと薬を塗っていく。まずは腕から。赤く腫れた上腕の内側に指を這わせると、「っ」と痛みに息を呑むような声がセイフの口から漏れた。
「い、痛い?」
「すこし、痛い」
「そ、それなら。腕は自分で塗った方がい……」
「ヤだ」
「あ、そう」
セイフにしては珍しいハッキリとした返事に、俺は肩をすくめるしかなかった。
最初は、背中など自分では手当の出来ない部分のみ、俺が手当をしてやっていた。しかし、今となっては、どこを怪我していても俺が薬を塗る事になっている。それもこれも、セイフのこの一言から始まった。
--------俺は、テルの使い魔だから。テルがシて。
一瞬、何を言ってるんだと思った。しかし、その時のセイフのキラリと期待に満ちた瞳を前に、俺は断る事が出来なかった。
「あの……次は、首に薬を塗るから。痛かったら言えよ」
「ん」
ペタペタ、ペタペタと薬を指で塗り広げていく。最近、俺が聖王都に到着するのを渋って、高難易度のダンジョンばかり挑むせいで、セイフの怪我は、後を絶えない。しかも、ヒーラーによってすぐに回復されないせいで、痕の残る傷も増えてきた。
「傷、増えてきたなぁ」
「ん」
「……ヒーラーが、居ればいいんだろうけど」
と思うものの、今の俺達の中に、別に誰かパーティを入れるのは、ちょっと……いや、かなり嫌だ。多分、パーティの人数が増えていくと、俺はきっとまた嫌われそうな気がする。そうなると、セイフも俺に対して失望するんじゃないだろうか。
なんて、俺が一人ネガティブな思考に囚われ始めた時だった。
「っひ、ぅ!」
俺の顔にヌルリとした感触が走る。あ、これは。
「ちょっ、セイフ!?」
「……ヒーラーなんて、いらない、よ」
「っひ、っぁ」
それまでジッとしていたセイフが、地面に両手を突いて、俺の方へと詰め寄ってきた。そして、頬を舐めていたセイフの舌が、そのまま俺の唇をこじあけ捻じ込まれてきた。
「っふ、ン。っんんっ」
ヌルリとした舌が、俺の口内を好き勝手に動き回る。この行為も、今や俺達にとっては日常と化していた。
「っは、っはぁ、せ、いふ。もっ、くすりが塗れないだろうがっ。っぁ、う!」
言ってるそばから、セイフが四つん這いのまま俺にのしかかり、顔や首筋、そして再び唇へとセイフの長い舌が這いまわる。
「テル、かわい」
「かわいくねぇっ!もう、顔中べたべたにしやがってっ!」
「……俺、テルの使い魔、だから。仕方ない」
「っぐぅ」
何かあればすぐコレだ。元々、寡黙で獣っぽさのあったセイフが、今や完全に開き直って自分を「使い魔」呼ばわりだ。視線を上げてみると、そこには酷く艶っぽい表情を浮かべた男が、微笑みながらこちらを見下ろしている。
「テル、顔が真っ赤。かわい」
「や、や、やめろってば!俺は……可愛くねぇっ!モテた事ねぇし!そ、それに嫌われてたしっ!」
店長時代も、勇者パーティ時代も裏で女子からは「冴えない」とか「ダサい」とか言われてたしっ!つーか、可愛いって言われてもそもそも嬉しくねぇっ!
そう、思っているはずなのに。
「俺は、テル好き」
「っっっ!」
「よかった。俺以外のひとに、気付かれてなくて」
そう言って、俺に更に体を寄せて頬ずりをしてくるセイフに、俺はもう何も言い返せなかった。
クソッ!これの、どこが使い魔だというのだろう。全然言う事を聞かないじゃないか!
そうこうしているうちに、俺の唇が再びセイフに塞がれる。
「ん」
「んっ、っふぅ」
あぁ、でもなんて事だ。
俺は「やめろ」と言いながら、再びセイフが俺に向かって唇を落としてくるのを、実のところ心待ちにしているのだ。
ヤバ、頭がフワフワする。なんか天国に居るみたいだ。
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