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第3話

 そうこうしている間にちかちゃんが来た。ちかちゃんは、このへんで一番制服が可愛い、と言われている高校に行ってる。チェックのスカートにチェックのリボン。リボンは何パターンかあるんだと嬉しそうに話してくれた。 「これね、昨日ちかが作ったの!」  そう言ってちかちゃんは、可愛らしいピンクの箱を出した。中にはぎっしりとクッキー。 「わぁ、すごいね。美味しそう!」  僕がそう言うと、ちかちゃんはえへへと笑った。  リビングのローテーブルの真ん中にクッキーの箱を置いて、みんなで美味しいねと言いながら摘んで、ちかちゃんは嬉しそうにそれを見ている。  ちかちゃんは『可愛い』に命をかけてる。今だってもう夕方なのに髪はキレイにカールしてるし、メイクもバッチリだ。小中学の頃の遅刻の理由はたいてい「前髪がキレイにできなくて」だった。 「あれ? そういえばちかちゃん、学校のカバンじゃないね」  床に置いてあるカバンはピンク。さすがにピンクのカバンは通学には使えないと思う。 「うん。一回帰ったの。クッキー取りに」  さっきのメッセージで耀くんがいるって分かったからだろうな。  いなかったら手ぶらだったのか、それとも来なかったのか。  まあ、僕はどっちでもいいけど。  宿題が終わったら、あとはもう各々が好きなことをしてる。  部活に打ち込んでる人達からしたら、勿体無い時間なのかもしれない。  でも僕は、朝も放課後も休みの日も、全てを捧げるほどのモノに出会っていないのだ。  どうすれば出会えるのか教えてほしい。  そんなことを考えながら学校で借りてきた本を読んでいると、敬也が僕の左側から寄ってきた。 「なあ碧、あれ、どうにかして」  僕の耳元で敬也がボソッと言う。 「どうにかって、どうしてほしいの」  僕もそれに小声で応える。  敬也の視線の先、僕の右側に座っている耀くんとその正面に座っているちかちゃん、そして耀くんの隣には姉が座っていて3人で何か喋ってる。 「水瀬先輩と、もちょっと話したいんだよー」  敬也は姉を『水瀬先輩』と呼ぶ。耀くんのことも谷崎先輩だし(より)くんやえりちゃんのこともセンパイ呼びだ。  僕は『先輩』という響きが嫌いだ。 「あーもー、仕方ないなぁ」  僕は立ち上がって冷蔵庫のチェックに行った。お茶のペットボトルと牛乳が減ってきてる。  これでいこう。  そう思って、買い出し用のサイフとエコバッグを引き出しから出して、耀くんのそばに行った。 「ねぇ耀くん。買い物、付き合ってほしいんだけど」  あ、お姉ちゃん睨んできた。 「いいよ。重いもの買うの?」  耀くんはそう言ってすぐ立ち上がった。 「うん。お茶と牛乳」 「なによ碧、それぐらい1人で行ってきなさいよ」  とお姉ちゃんは不満気に言ったけれど、 「陽菜は弟にキビしいなぁ」  そう言いながら耀くんが笑いかけると口をつぐんだ。  僕ができるのはここまでだぞ、敬也。あとは自分でどうにかしろよ。  耀くんと2人で家を出ながらそう思った。

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