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第68話

「片付けは俺がやっとくから母さんは支度しなよ。碧、ちょっと本でも読みながら待ってて」  耀くんが椅子から立ち上がりながらそう言った。 「あら、そう? じゃお願い」  耀くんのお母さんは嬉しそうにしながらリビングを出て行った。    僕は言われた通り、図書館で借りてきた本を出してみるけれど開いても全然読めない。  この後のことを、考えてしまう。  テーブルの上に本を開いて置いて、キッチンから聞こえてくる水音を聞くとはなしに聞いている。お皿のカチャカチャいう音。やがて水音が止まった。  キッチンから出てきた耀くんが、 「俺の部屋、エアコン入れてくる」  と言ってリビングから出て行った。その後、廊下でお母さんと話している声が聞こえた。  パタパタとスリッパの音がして、リビングのドアが開いて耀くんのお母さんが「エコバッグ、エコバッグ」と言いながら入ってきた。 「じゃ、私出掛けてくるから。ゆっくりしてってね、碧くん」 「あ、は、はい」  にっこり笑いながら手を振って言われて、肩を窄めて頭を下げた。  きちんと閉まらなかったリビングのドアの向こうから、耀くんが「忘れ物ない?」と訊いている声が聞こえる。「お財布と、スマホとエコバッグと日傘と、あ、タオル」というお母さんの声と、パタパタと歩くスリッパの音がする。 「じゃあお留守番お願いね。行ってきまーす」  よく通る明るい声と、パタンとドアの閉まる音。それからカチッカチッと鍵をかける音がした。  そして、リビングのドアが開いた。  耀くんが僕の方に歩いてくる。 「母は出かけたよ、碧」  そう言って、耀くんが椅子に座ったままの僕の方に屈んでそっとキスをした。  何度か啄むように口付けて、唇を舐められてぞくぞくする。  僕は初めて耀くんの首に腕を回して抱きついた。耀くんは僕を掬い上げるように抱き上げて立たせると、深く唇を合わせた。  舌で歯列をなぞられて、開いた口の中を熱く舐め回されて息が上がる。  心臓はどくどくと忙しなく鳴って、身体の内側から熱が湧いてくるのを感じた。  耀くんの手が僕の肩を、背中を撫でていく。その手が、ぐいと腰を抱いた。  あ  思わず目を開けた。唇を重ねたまま、耀くんと目が合った。  密着した互いの身体の変化が、分かってしまった。 「…俺の部屋、行く?」  掠れた声で囁くように言われた。ほんのりと赤い目元。  その、濡れた瞳を見返して、こくりと頷いて応えた。  耀くんはもう一度僕をぎゅうっと抱きしめて、「じゃ、行こっか」と耳元で優しく言った。 「まだちゃんと冷えてないけど」  部屋のドアを開けて耀くんが言った。エアコンの稼働音が響いている。  肩を抱かれて中に入って、耀くんが後ろ手にドアを閉めた。  片手で僕を抱きしめた耀くんが、長い指を僕の顎にかける。 「キスの続き、してもいい?」  僕を溶かしてしまう甘い低い声が、背骨にずんと響く。 「…うん…」  耀くんを見上げて、頷きながら応えた。    顎に触れていた手に上を向かされて、僕は目を開けたまま唇を開いた。  視線を合わせたまま唇を重ねて、でも僕は上顎を舐められて目を閉じた。  広い背中に手を回してしがみつくけれど、もう心臓は苦しいほどに高鳴っていて足元が覚束ない。  キスで生まれた熱が、どんどん下腹に集まっていく。  …どうしよ…、キス、気持ちよすぎ…  やっと、口付けながら呼吸が少しできるようになって、でもやっぱり酸素が足りなくて頭がくらくらする。  耀くんは一度唇を離すと、僕を軽々と抱き上げてベッドに下ろした。  そのまま押し倒されて覆い被さるようにキスをされる。耀くんの身体の重さと熱を感じて、もうどうにかなりそうだ。  この前は、確かここまで

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