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第110話

「今日学校ですごい見られたよ。土曜日の文化祭のことで。うちの高校にも耀くんのこと好きな子いっぱいいるみたいだよ」  怒っているふりをしながら耀くんを睨んでみる。 「やっぱり噂になってた? ごめんね、碧」  やっぱりってことはこうなるって分かってたんだ。明日からどうするんだろ、耀くん。 「耀くんが格好よすぎるからいけないんだよ」  怒ってるふりをしてるのに、口角が上がってきてしまう。 「困ったね、どうしたらいい? ダサくする?」  耀くんも笑ってる。  わがままごっこ、楽しい 「ダメ、耀くんは格好よくないとダメだもん」  わざとむちゃくちゃなことを言ってみる。 「我儘だなぁ、碧は」  耀くんはそう言いながらすごく嬉しそうに笑った。そしてまたぎゅうと僕を抱きしめる。 「もっと言いなよ。もっと俺を困らせて。俺がもう無理って言うぐらい我儘言ってごらんよ」  そんなこと言われても、これ以上わがままを言ったらバチが当たる気がする。 「そんなん無理だよ。耀くんが僕の恋人だってだけですごいのに」 「うわ。碧の口から初めて恋人って聞いた。やばい、泣きそう、俺」  ほんとに耀くんの目が潤んできて、僕はなんて綺麗なんだろうって思った。  耀くんの涙を見られるのは、きっと僕だけだ  優越感が湧いてきて、無意識に笑っていた。耀くんが僕の頬に手を伸ばす。 「碧、すごく綺麗に笑ってる。何考えてるの?」  前にも似たようなこと、訊かれた。 「…僕の、耀くんのこと…」  耀くんの目が一瞬見開かれて、そして柔らかく微笑む。 「ずっと、そうやって俺のこと独占してて」  頬を撫でた手が首の後ろに回って、そっと引き寄せられた。 「俺も碧のこと、ずっと独占するからね」 「してもいい?」でも「させてね」でもない断定形で言われて息が止まった。  触れるだけの口付けを交わす。    誓いのキスみたい  そう思って耀くんを見た。  耀くんは膝に乗せた僕を見上げた。 「神様がいてもいなくても、俺は碧に愛を誓うよ」  心臓がどくんと跳ねた。  驚きすぎて声も出ない。  ぽろぽろ、ぽろぽろと涙が溢れて止まらない。しゃくり上げる僕を耀くんの長い腕が優しく抱きしめてくれた。 「ほんと、笑ってても泣いてても誰よりも可愛いな、俺の碧は」  笑いながら耀くんが言う。 「わ、わがまま言っても?」  泣きながら歪んだ声で問うてみた。 「もちろん。我儘言う碧も俺の大事な碧だからね」  可愛いに決まってる、と言って耀くんは僕を引き寄せてキスをした。  とっても綺麗で、少し怖い僕の恋人  大好きな、僕の耀くん  僕だって耀くんに愛を誓うよ  でも今はまだ恥ずかしくて言えないから、だから… 「…耀くんだいすき」  そう呟いて抱きついた。  了

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