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第109話
「ね、碧。ちょっと俺の膝に乗って?」
耀くんが僕の腕を引く。僕は引かれるままに耀くんの膝の上に横向きに座った。耀くんは長い腕で僕を抱きしめた。
「ほらこうやってね、碧は俺のお願いを聞いてくれるよね。その度に俺は幸せを感じてる。碧は俺にたくさん、たくさん幸せをくれてる。それこそ持ち切れないほど。だから俺はますます碧を好きになるよ」
「耀くん…」
「俺にとっては碧がそばにいてくれるだけで幸せなんだ。碧が俺の想いに応えてくれるなんて思ってもいなかったのに、こうして俺の腕の中にいてくれて、こんなに嬉しいことはないよ」
僕を抱きしめて、耀くんが低く柔らかい声で諭すように僕に言う。
「だからね、碧は俺に特別何かをしようとか思わなくて全然いいんだよ。碧が俺を好きでいてくれるだけで充分」
そこまで言って、耀くんがくすっと笑った。
「どうしたの? 耀くん」
「いや、昨日あんなに碧に好き勝手しておいて、全然言葉に説得力がないなと思って。我ながら呆れるよ、ほんとに」
耀くんが自嘲気味に笑うから、僕は膝に抱かれたまま耀くんをぎゅっと抱きしめ返した。
「耀くん、そんな風に言ってたら、僕どんどんワガママになるよ?」
いいの?と綺麗な瞳を覗き込んで言ってみた。
「いいね、我儘な碧。すっごい可愛いんじゃない?」
今もめちゃくちゃ可愛いけどね、と言い返されて言葉に詰まった。
「実際のところ、碧はもっと俺に我儘を言っていいんだよ。結構我慢してるだろ? 聞いてあげられないこともあるかもしれないけど、思ってることは言ってごらん、ね?」
優しく微笑みながらそう言われて、耀くんに抱きついた。
「いいの? 忙しい時に、会いに来て、って、言うよ?」
「いいよ」
「また、帰っちゃやだって、言うよ?」
「いいよ、言いなよ」
「帰りたくないから時間止めてって、言うよ?」
「それはさすがに叶えてあげられないけど、でもすごい可愛い我儘だよね」
だからまた言って、と耀くんが柔らかい声で言う。
鼻の奥がツンとして、じわじわと涙が溢れてくる。
ずずっと鼻を啜った。
「碧、ちょっと泣き虫になったよね。泣き顔もすごく可愛い」
可愛くて困る、と耀くんは笑いながら僕の目元を長い指で拭った。
「…よ、耀くんのせいだよ」
「うん?」
「耀くんのこと好きだって思ってから涙腺がおかしいんだもん。だから…」
「そっか、それなら確かに俺のせいだね」
よしよしと頭を撫でてくれる大きな手。
すごく優しくて、時々いじわるな僕の恋人
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