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第108話

「あれ、谷崎先輩じゃね?」 「う、うん」  階段の下で耀くんが待っていた。 「おかえり、2人とも」  そう言って、耀くんは僕の方に手を伸ばす。 「ただいま、耀くん」  敬也は耀くんに軽く頭を下げた。 「敬也、ちょっと碧うちに連れてくから陽菜にそう言っといてもらえる? 行くだろ? 碧ん家」  僕の肩に手を回しながら耀くんが敬也に言う。  敬也がちらっと僕と耀くんを見た。僕はドキッとして唇を噛んだ。  敬也は、うんうんと頷いて、 「はーい、了解っす。じゃ」  と言って片手をひょいっと上げると、うちの方向へ歩いて行った。その背中を2人で見送った。 「碧、コンビニ寄る?」  耀くんが僕を見下ろしながら訊く。 「…コーヒー入れてくれるなら寄らない」 「OK、じゃ、そのまま帰ろう」  そう言って耀くんはいつもよりゆっくり歩き始めた。  耀くん家のマンションのエレベーターがちょうど1階にいてすぐに乗れた。乗ったらやっぱり手を繋いだ。指を絡めて。 「今日、しんどかった?」  ポツリと訊かれて、 「…うん、ちょっとね」  と応えた。平気、と嘘をついても、どうせすぐにバレてしまう。 「ごめんな」  耀くんが絡めた指に力を込めた。 「ううん」  僕も耀くんの大きな手を握り返した。  昨日とは違って静かに耀くん家に入って、でも昨日と同じように耀くんは僕をぎゅうっと抱きしめた。僕も耀くんを力いっぱい抱きしめる。  少し腕の力が緩んで耀くんと目が合って、そしてキスをした。  昨日の、飢えるみたいなのじゃない、優しいキス。  ゆっくりと唇を離して、さらりと頭を撫でられて、家に上がるように促されて靴を脱いで上がると、耀くんが僕を抱き上げた。 「昨日、無理させてごめんな」 「耀くん…」  そのまま僕をソファまで運んで、静かに下ろした。そして耀くんは僕の隣に座った。 「ただでさえ碧の方が負担が大きいのに…」  僕を抱き寄せながら申し訳なさそうに言う。そんな表情も格好いいからずるい。 「耀くんに無茶をされるのは…いやじゃなかったよ」 「…碧がさ、そうやって俺を甘やかしてくれるから、つい暴走したんだよなぁ。ごめんな、ほんとに」  そう言いながら、耀くんは僕の髪にキスをした。 「ねぇ、耀くん」 「うん?」  肩にのせられた耀くんの手に手を重ねる。僕はずっと気になってることがある。 「僕、ちゃんと耀くんに好きを返せてる?」 「え?」  耀くんが僕の顔を覗き込んだ。 「昨日も、僕はいっぱい耀くんから気持ちをもらったよ。持ち切れないぐらいもらったと思ってる。でもそれに、僕はちゃんと応えて、お返しができてるのかなって」 「碧…」  ちらりと耀くんを見上げると、少し困ったように笑った。

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