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「ここまでどうやって来たの?」
「アンナさんが帰り道に送ってくれて。助かりました」
同僚のバイクに乗せてもらったらしい。
いくらか恥ずかしそうに言ったのは、以前、炎天下を歩いてきて、店に着くなり倒れてしまったことがあるせいだ。
陽斗の職場の学校からここまで、歩けば一時間近くかかる。
さいわい軽い熱中症で、水分補給して涼しくしたらすぐに回復したが、それ以来、誰かに頼んで送ってもらうか、自分に電話をくれれば迎えに行くと言ってある。
夕焼けが始まったばかりの空を眺めながら、裏の駐車場までのんびり歩く。もくもくした雲からまだ色のうすい太陽の光がいくつも降りている。
空に厚い雲が多いのは嵐の前だからだ。中世の絵画のようにクリーム色やグレーの濃淡の雲が太陽に照らされている。
「本当に天使が下りてきそうだな」
「え? 天使?」
陽斗がきょとんとする。
「ああいうふうに雲の合間から地上にさしてる太陽の光のこと。天使のはしごって言うんだ」
「へえ、初めて聞きました」
そう言って目の前の風景を見て「確かに、天使が下りてきそうですね」と感心したようにうなずく。
大倉が天使のはしごという言葉を知ったのは高校生の時だ。写真部のメンバーと撮影に行って、誰かが言ったのだ。その言葉を思いついた人はすごい感性だなと思った。
「ああいう光をじょうずに撮りたいけど、なかなかうまく撮れないんだよな」
加工技術が発達しているから、色や光の調整をして理想の写真に近づけることはいくらでもできる。でも目の前で見たそのままの色を撮るというのは、案外、難しい。
「そうなんですか? 大倉さんの写真、どれもすごくきれいですけど」
「まあ、それは枚数撮ってるし、加工もするしな」
大倉はこの島でガイドとして働きながら、カメラマンとしても活動している。
駐車場に着くと、まず車のドアや窓を全開にして、熱い空気を逃がした。車は知り合いから譲ってもらったものだ。型は古いが大事に手入れして乗っている。
「どうぞ」
「おじゃまします」
車を持っていない陽斗は、車に乗る時いつもすこし申し訳なさそうな顔をする。大倉に負担をかけていると思っているのだ。
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