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そんな中、大倉はいたってマイペースに島の生活に不慣れな陽斗をサポートしていた。とくに最初のひと月は、現地語が話せない陽斗の通訳をかって出て、よく一緒に出かけた。
その頃の陽斗は今よりかなり痩せていて顔色が悪く、目を離せない危うい感じがしたのだ。
話してみたらすこしシャイなだけで、最初の「自殺しに来たんじゃないか」という疑念は晴れたけれど、しょっちゅう誘っては島のあちこちを案内した。
同じ日本人と言う気安さから陽斗も好意を持ってくれるようになり、わかりやすい陽斗の好意は恋愛感情が入ったものだと大倉はすぐに気がついた。けれど陽斗はまるでアクションを起こさなかった。
むしろ隠しているつもりらしく、一緒に食事をしてもシュノーケルやダイビングに誘っても、普通の友人の範囲からはみ出すような行動はしなかった。
そうして痺れを切らした大倉の告白に、陽斗は真っ赤になって「よろしくお願いします」と深々と頭を下げたのだった。
晴れて恋人になったと言っても、まだキスくらいしかしていない。
大倉としてはもちろん関係を進めたいが、何の経験のない陽斗はそんなことを考えてもいないようだ。
無理にすることでもないので、今まで通り食事に行ったり家でのんびり過ごしたりして、大倉は陽斗の気持ちが追いつくのを待とうと思っている。
スーパーで数日分の食材を買って、家に戻った。海からはすこし距離がある高台の小さなペントハウスが大倉の家だ。
以前はオーストラリア人夫婦が別荘に使っていたという2階建ての家で、広いテラスから海を眺めることができる。
何度か部屋に遊びに来ているが、つき合うようになってからは初めてだ。
陽斗はいくらか緊張した顔つきで「おじゃまします」とサンダルを脱いだ。日本式に裸足で過ごすようにしている。
「適当にしてて」
陽斗が来る予定じゃなかったから片付けてはいないが、男のひとり暮らしなんてこんなものだ。
窓を開けて回るとこもっていた熱気が一気に薄まった。買い物を冷蔵庫にしまい、缶ビールを2本持ってテラスに誘う。
「陽斗、こっち来て飲もうよ」
テラスにはテーブルと椅子が出してある。夕暮れが濃くなって、オレンジと青と群青のグラデーションが風で波立つ水平線の上に広がっていた。
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