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第15話
その男は、険しい形相でずんずんと大股で俺に近づいてきた。人物を認識し、は、と背中が凍るのがわかった。
「どういうこと?」
今までに感じたことのない、威嚇のフェロモンが出ていた。それに足が震え、立っているのもやっとだった。声を出そうとするが、口を開閉することしかできない。
「ねえ、答えて」
ぎり、と手首をつかまれる。痛みに眉を寄せるが、相手はそれを緩めようとしない。
「あの先輩、アルファだよね?それに、生徒会の、本薙早苗の取り巻きだよね?」
いつも朗らかな理央が、目を吊り上げて、怒りで顔を赤くしながら俺を問いただす。
「なんで、そんなやつと…そんなアルファと、先輩が…」
ねえ、と答えを促すように、腕への力が強まる。骨が軋み、威圧のフェロモンが一気に強まり、膝の力がかくん、と抜けてしまう。
「りん先輩っ」
それに驚いて、理央は俺の腰に手を回し、身体を密着するように抱きしめた。鼻先が触れ合いそうなほどの距離で見つめ合うと、理央の威圧がどんどん解かれていった。その変わり、みるみる泣きそうな顔になっていく理央に心臓が締め付けられるように痛い。
「…ねえ、教えて、りん先輩…」
ぎゅう、と強く抱きしめられる。こんなに思いの強い抱擁は初めての経験だった。早い心音が聞こえるのは、自分のものなのか、理央のものなのかわからない。そっと手を回し、理央の頭を撫でる。
「…ごめん、理央」
ぴく、と肩が揺れる。この距離だと相手の些細な心の動きが見えてしまうようだった。
「ずるい」
ふ、と耳元で吐息が笑うように漏れた。
「今、名前を呼ぶなんて…りん先輩は、本当にずるい…」
頬を首筋に擦りつけるように、理央はさらに抱きしめ直した。その甘えるような仕草が愛おしくて、鼻の奥が、つん、と痛んだ。震える吐息を首元で何度か感じていると、急に鋭い痛みが走った。
「いたっ!なっ、んむっ!」
首筋がぎり、と音を立て、ジンジン痛み、声を出すと、すぐさま、両頬を包まれ、唇を塞がれた。小鳥の戯れのようなものではなく、食まれるような濃密なものだった。角度を変え、何度も唇を吸われる。背筋をむずむずと何かが走り抜け、吐息をこぼすと、ぬるり、と熱の塊が口内に入り込む。
「んっ、っぃ、おっ、んうっ」
背中を強く叩くが、理央の手は固定されたままで動かない。その手首をつかんで、離そうと力をこめると、口内を翻弄する舌が、奥で縮こまった俺の舌を絡めあげ、強く吸われる。すべてを食べつくすような愛撫に全身が震え、力をなくしていく。
「ぁ…、り、んう、おっ…んぁ…」
縋るように、理央の湿ったシャツを握りしめる。腰に手を回され、全身が密着するように理央が身体をひねる。歯茎を一つひとつ舐められると、頬裏を丹念に味わわれ、舌裏のくぼみにまで、硬くされた理央の舌が挿入される。息をすることすらままならず、ついに、またかくん、と膝から力が抜けてしまった。それに気づいた理央は、ようやく舌を抜いてくれた。ぼやけた頭にようやく酸素が流れ込んでくる。激しいセックスのようなキスに、全身の力が抜けて、くたり、と理央に身体を預けてしまう。はあ、はあ、と呼吸を整えることで手一杯の俺の頬や瞼に何度もキスをする。
「ば、か…なに、すんだ、よ…」
「先輩…りん先輩…」
「んぅ…っ」
まだ濡れている唇に角度を何度も変え、愛しむようにちゅ、ちゅ、と吸い付く。小言を言おうと唇を開くと、招かれたように、また大きな熱が挿入される。上あごを大きなぬめりが、何度も往復する。それを阻むように自分の舌で押し返すと、それを喜ぶように、舌を絡みつかされてしまう。文句を訴えようと瞼を上げると、後悔する。透明度の高い瞳の奥には、情欲がにじみ、深い青色が見える。俺の動きを一つも見逃さないと言わんばかりに、ずっと見つめている。その熱に焦がされるのを恐れるように、瞼を閉じて、世界を遮断する。
すると、太ももに、硬い何かが押し付けられた。目を見張ると、理央は目を細めて、うっとりとしながら、唇への愛撫をやめない。
「んうっんんっ」
それをしごくように、理央は上下に腰を動かし始めた。
渾身の力を込めて、肩を押すと、ようやく身体が介抱された。ぜえぜえ、と乱れる呼吸を整えていると、顎を雫がつたって、地面に落ちた。どちらのものともわからぬ唾液だ、と気づくと、さらに身体が、か、と熱を持つ。すぐに手の甲で拭う。目線を上げると、肩で息をしながら、赤い顔をし、情欲を強く示している瞳で理央が俺を見下ろしていた。視線を動かす際に見えた、理央の股間ははち切れそうに膨らんでいた。後ずさり、距離をとろうとする。
「わっ!」
しかし、すぐさま、腕を引っ張られ、理央の腕の中に戻ってしまう。ぐう、と強く抱きしめられる。
「離さない、先輩は、俺のだ」
「り、りおっ!」
ごり、と硬いそれが、太ももにぶつかる。じわ、と自分の下腹部に熱がたまっていることに気づいてしまう。
「いった!」
また鋭い痛みが首筋に走る。理央の頭をばしばしと叩く。ぎ、と歯が皮膚に食い込んでいるのがわかってしまい、さらに痛みを感じる。
「絶対に諦めませんから」
顔を上げた理央の口元から首筋へと続いた唾液の糸が、つ、と切れたのを見て、視線をあげる。いつも軽快に笑う目元は、ギラギラと強い光を発しながら、汗だくの理央は力強くつぶやく。
「俺は、アルファですから」
その瞳に吸い込まれて、俺は何も言えなかった。
こんなに上位のアルファが、俺を本能の奥底から求めている。
身体が、本能が、歓喜し震えた。
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