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第1話 二人の関係

 俺の名前は大瀧(おおたき)(けん)。年齢二十歳、成績は悪くない、ただの男の大学生。情報科を専攻している。恋愛対象は男、同性だ。付き合った経験は無い。そもそも、友人が少ない。バカばかりの世の中、大抵の人間に興味は無い。あるとすれば……。 「(けん)、これ。」  目の前にいる色白で眼鏡をかけた男から、新作ゲーム機のコントローラーを渡される。 「ん、さんきゅ。」  俺は愛想なくコントローラーを受け取り、体を液晶のテレビに向けて画面を見上げる。画面には、協力型討伐戦の待機状態が映っている。俺は何を言うでもなく、コントローラーで丸のボタンを押してradyにチェックを付けた。すると真横にいる男が即座にstartへチェックを付け、一瞬真っ黒なロード画面を映し出されてから、討伐戦が始まる。 「……」  討伐戦の最中、誰一人として声は出さない。それがルールという訳では無い。ただ、お互い喋ることが少ない。あったとしても、ゲーム内で起きたことの報告ぐらいだろう。とはいえ、お互い強くて動きを把握してるため、言うほどのことなど無いのだが。  討伐戦を終えて、俺はコントローラーを男に手渡し、テーブル横にある座布団の位置まで移動する。 「勉強?」 「ああ。」  彼は返事を聞いてから、受け取ったコントローラーを近くのカゴに入れ、またゲームを始める。  彼の名前は御蔵(みくら)(りょう)。このように、俺より寡黙で思考の読めない男だ。いや、思考が読めないというのは正しくないだろう。(りょう)は非常に素直な人間だ。繰り出す言葉ひとつひとつがストレート過ぎる。本人は、「間違ったことを言ってるわけじゃないのに、なんで驚かれるのか分からない。」のだそう。彼らしい。 「……」  相変わらず、静かな空間。コントローラーのボタンを押す音や、教材をめくる音と書く音が僅かに聞こえるぐらい。  俺は、この空気が好きだ。静かで、何を言わなくても良いと思える。心地が良くて、集中しやすい。邪魔も入らない。一人きりで散策する大学より、この空間と雰囲気をこよなく愛している。前は散策の方が好きだったというのに、人の好みなど容易く変わってしまう。  だが、同性愛だけは変わってくれなかった。それだけが、今強く、俺を苦しめている。 「……(りょう)。」 「ん、なに?」  俺の低くて小さな声に、(りょう)は小さな声で聞き返した。 「来週の土曜日、俺ん家、来る?」  俺からすれば、精一杯の誘いだった。なぜなら、俺は(りょう)のことが、恋愛的な意味で好きだから。  (りょう)は少し間を置いてから、片耳に付けていたイヤホンを外して、こちらを見る。 「うん。」  それだけだった。でも、それだけで嬉しかった。内心、断られたらどうしようかと思っていた。(りょう)は素直だから、断られてもスッキリするとは思う。そう考えると、イエスの返事を受けてしまったのは良くないんじゃないか、相手は同性ましてやノンケかもしれないのに、希望を持ってあわよくば恋人になろうだなんてそんな浅はかなことをしても良いのか。と、思考がグルグルしていく。  そんな俺を知ってか知らずか、(りょう)はゆっくりと立ち上がり、俺を見下ろして口を開いた。 「飲み物、いる?」 「え?」  思考真っ只中だった俺からすれば、急な質問だった。つい素っ頓狂(すっとんきょう)な返答をしてしまう。 「あ、頼む。」  しまった、と思いつつ、何も無かったかのように、俺は返事をした。(りょう)はコクリと頷き、部屋を出て行く。その背中を見届けてから、俺は肩を大きく揺らして、軽くため息をついた。 「なにをしているんだか。」  小さな独り言。その言葉の中には、自分自身への呆れやらの悶々が詰まっている。吐き出したくても吐き出せない思いとやらは、これほどまでに辛いなどと感じるのは、あの時以来であろう。俺はこれをどう対処すべきなのか、あの時からずっと、未だに分からなかった。  そもそも、なぜ好きになってしまったのだろうか。なんて、掘り下げてしまえば哲学になってしまいそうなことまで考えてしまう。しかし、この際、思い出に目を向けるのも悪くないかもしれない。(りょう)と、出会ったときの思い出を。

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