1 / 50

第1話 オメガ判明

 慶介(けいすけ)は4月の末ごろ、体育のあと、急な火照りと発汗で保健室に行った。『ホットフラッシュかなぁ?』という保険医に従ってしばらく休んだが症状は治まらず、親に迎えに来てもらい早退した。  帰宅した慶介(けいすけ)は制服を脱ぎ捨て布団に潜り込む。気が抜けると性的興奮がムクムクと湧いて困惑した。少し早いけど、と掛け布団をタオルケットにされたのはタイミングが悪かったと思いながら、緩く立つソレを扱き、自分の声とは思えない甘ったるい喘ぎ声を薄いタオルケットに押し付け隠した。  引かない微熱と出しても終わらない性的な興奮に慶介はグズグズになった。  慶介(けいすけ)が動けるようになったのは3日後の事だった。水分不足でフラフラとしながらリビングに下りると、母親は汚らわしいものを見るような目で、父親は軽蔑の目で慶介を見た。妹と弟は見てはいけないモノを見るように視線をそむけた。  ただでさえ狭かった肩身がさらに狭くなるな、と未来が薄暗く陰った。思えば、3日間は風呂にも入っていない。自分はさぞ臭うことだろう。と、はたと気づき、薬置き場のゼリー飲料とスポーツドリンクをあるだけ持って部屋に逃げ帰った。  戻ってきた部屋の惨状をみて、自分でも顔が引きつり、自分の顔色は血の気が引いて白いのか、恥を感じて赤いのか、今何色なのだろう? なんて考えてしまった。  シーツやらの汚れものをまとめて洗濯機に押し込み乾燥までセットして、シャワーを浴びた。風呂の中でもまたムラムラしてきて自慰をしてしまって、もう自分が信じられなくて冷水で頭を冷やした。  冷えた頭で急ぎ自分に起こった症状をネット検索した結果は『オメガのヒート』だった。  慶介は頭を抱えて困っていた。  検索結果に出てきた症状は、まさに自分自身の体験がそのまま書かれていた。 「俺は、オメガなのか?」  とにかく誰かに相談したかった。最初は病院に行くべきか相談出来る#7119にたどりついた。でも、救急車を呼ぶべきタイミングはもう終わっている気がして2本目のスポーツドリンクを開けた。次はチャイルドホットラインを考えた。でも、ただの性のお悩みではない。悩みは明確でどうすれば良いのかはネット検索をしていたことからもわかりきっていた。  慶介が電話すべき先は第2性対応病院のホームページの電話番号だ。 「でも、なんて言えば言えばいいんだ・・・」  えいや! と勢いで電話したが電話対応は親切だった。『オメガについて相談したいんですけど・・・』なんて一言ですぐに「担当に繋ぎます」と言われ、バース科の担当は慶介が子どもで相談が目的と気づくと公的な相談窓口である役所の福祉センターのバース課を紹介してくれた。  バース課の窓口担当は親身になって話を聞いてくれて、慶介はこの3日間がいかに不安で困惑したか、実はサポートがなくて脱水症状を感じたとき死ぬかと思って怖かったこと、自分が母親の托卵で産まれて戸籍上の父親と血の繋がりがないこと、血縁上の父親は解らないこと、など身の上話まで話してしまった。  窓口担当の『とにかく、第2性の性別検査をしなければ何も始められない』の一言に、慶介は今朝の母親の視線を思い出し気が重くなった。すると窓口担当が『保護者同伴が望ましいですが、どうしても無理ならバース課の者が付き添うことが出来きますよ』と言ってくれた。  味方を得た気持ちになった慶介の内に勇気が湧いて『頑張って頼んでみる』と答えていた。  慶介は母親と一緒に電車とタクシーで1時間以上かけて県内で唯一の第2性対応病院に来ていた。  病院で、血液を抜かれて、腹部をエコーで調べると 「分かりにくいかもしれませんが、ここの黒いのが膀胱でこっち黒いのが子宮です」  医師はそう言ってエコー画像をボールペンでなぞって子宮の形を示してくれる。 「君の第2性はオメガ。両性男型オメガだといえます。確定には血液検査の値などを含めて診断しますが、先日ヒートが来たとの事ですので、ほぼ間違いないかと」 「俺は、男じゃないの?」 「ん? 男ですよ。第1性は男、第2性がオメガ、医学的分類では男型オメガ性、日本の戸籍分類では両性になります」  視線を感じて振り返ると、母が酷く嫌そうな顔をしていた。何故そんな目で見られなければならないのかと、思うとジワリと涙が出てきた。  険悪な雰囲気を察した医師が咳払いを一つ、努めて明るい声で 「えー、まずは性別が変わった手続きがいります。必要な診断書等は出しておきますね。あ、こちらのリーフレットをお読みいただければわかるかと思います」  医師は母にいくつかのリーフレットを渡し、慶介には『オメガ性になったら』という冊子を差し出した。 「今はオメガにも生きやすい社会になってきたから」 ***

ともだちにシェアしよう!