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第1話

「今日からご奉公に来ました『ハル』と申します。お坊ちゃんのお世話係として雇われましたので、よろしくお願いします……」 歳の頃は12歳くらいのやせ細った、か弱そうで、身なりもボロボロの着物を着た大人しそうな男の子とも女の子ともつかない容姿の少年がオドオドした様子で立っている。 『お坊ちゃん』と呼ばれた主はこの奉公先の長男であり、その子供と歳はほぼ同じくらいであり、着てるものも顔立ちも整った男らしい顔をしていた。やや、やんちゃ気味に見えるその容姿に違わず、自由奔放な振る舞いをしていた。 「ハルとか言ったな。おまえは今日から俺の下僕だ。何でも言う事を聞けよ?」 ニヤリと笑うその表情は、いじめっ子の表情だ。周りの女中やら小姓がハラハラする中、ハルは彼のそばに歩み寄り、ぺこり、と頭を下げた。そのままハルの髪を掴むと 「まずは土下座しろよ。忠誠を誓え」 ハルは素直に土下座をして震える声で 「どうぞ、よろしくお願いします、(まさる)様……」 「……ふん、いいだろう。まずはその小汚い格好をどうにかしろ。俺の世話をするんだろ?汚いままでは俺が笑われるだろ。」 1人の先輩奉公人を呼びつけ、身なりを整えるように指示を出す。細かく指示を出したあと、そのままハルは連れていかれて、風呂で綺麗に洗われ、伸び放題だった髪も整えられ、彼のお古だという着物を渡されて袖を通す。 しっかりとした作りのそれにハルは驚いて目を見開いていた。 「なかなかに仕上がったな。髪もいい具合の長さだ。おまえの顔にはそれくらいの長さがあった方がいい。男とも女とも見えるからな」 少し長めに切られて整えられた髪は中性的な顔を際立たせていた。 「……あ、あの……こんなにいいお召し物を頂いてよろしいのでしょうか?」 「悪ければ渡しはしない。今後は俺について学業にも付き添え。それなりの身なりでなければ俺が笑われる。それに髪もいい具合だ。 せっかくの綺麗な髪をしてるんだからあまりに短髪なのももったいない。」 その言葉がハルには嬉しかったのか、その後も髪を短髪にすることはなく、結えるくらいの髪の長さを保つことになる。 「私は字も読み書きは出来ませんが……」 「直々に教えてやるから早々に覚えろ。それに先々、俺が跡継ぎになった時に、それくらい出来なくては仕事が滞っては困るからな」 ハル自身、そんな先々まで考えてはいなかった。ある程度の年齢が来たらどこかに仕事を求めて、なんらかの仕事に就くとは思っていたけれど…… 「精一杯、頑張らせていただきます!!」 「ぷッ……あははははは、今日一、声が出たな。これから俺にみっちりついてもらうから覚悟しておけよ。俺は優しくないからな?」 この言葉通り、跡継ぎとして育てられている主人のスケジュールは過酷なものだったが、本人は当たり前のようにそれをこなしていた。 ハルは最初こそ一日が終わると倒れるように寝入っていたが、食らいつくように付き人をしていくうちに体力がついてくると、その日の学びの復習くらいは出来るようになっていった。 貧しさから、学校へ通うこともなかったまま、奉公先で学ばせてもらえるなど思ってもなく、夢中で色々なことを吸収していった。 世話というのも食事の準備から、風呂で背中を流すことなども試されるように呼ばれては、そのよう急に応えてきた。 元々、男らしく整った顔立ちをしていた匡だが、歳を増す毎にその男らしさに磨きがかかっていった。いつまでも女顔の自分と比べて、それが羨ましくもあり、その横に立てる自分を誇らしくも思えた。 そのことで匡のいないところでからかわれたりしたこともあった。 「あの人の側仕えだからっていい気になるなよ?おまえなんてただの使用人だろ」 決してそれを鼻にかけていたわけでもなければそういった態度をとった覚えもない。けれども鼻に付いてしまうならそれはそれで受け止めるしかなく、顔などの目立たない場所に痣を作ることもしばしばあった。 目立つところに傷は作れない事情があった。

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