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2-4 仲間
ツヴァイと顔を見合せる。今のは、セーラの声だった。次に乾いた破裂音が連続して辺りに響き渡るのを確認する間もなく、私は思わず音の方角へと駆け出していた。
「アイちゃん!?」
驚いたようなツヴァイの声が背に追い縋るも、足を止めずに突き進む。壁面の出っ張りを頼りに登り、建物から建物へと飛び移る。程なく下方に見えてきたのは、袋小路に追い込まれたセーラと、彼女を取り囲む訓練用ロボット達の姿だった。……数が多い。セーラが逃げている内に沢山引き連れてきてしまったのか。
セーラは行き止まりの壁を背に、出鱈目 に銃を乱射していた。しかし、訓練用ロボットの展開する例の光化学シールドに悉 く弾かれて効果は無い。にも関わらず、半狂乱の彼女は撃つのを止めない。弾が切れて何も出なくなっても、泣き叫びながら引き金を引き続ける。
恐怖でもうマトモな判断が出来なくなっているのだ。これはマズイ。
弾が飛んで来ないのを悟ると、ロボット達はシールドを解いた。これがある内は相手の攻撃を防げるが、同時に自身の攻撃も相手には届かないというデメリットがある。それを解いたということは、即ち――。
ロボット達が一斉に、手にした銃口を掲げた。そこから弾が飛び出すよりも先に私は両者の間に降り立ち、ロボットの銃口目掛けて鉛玉をお見舞した。
途端、銃の暴発と共にロボットが弾け飛ぶ。近くに居た個体も巻き込まれ、照準の狂った弾があらぬ方に飛んでいく。それでも敵の数が多いので幾らかは攻撃を喰らうつもりでいたのだが、結果としてそうはならなかった。
なんと残ったロボット達も次々にその場に倒れ伏したのだ。遅れて後方から、硝煙を上げる銃を片手にツヴァイが姿を現す。どうやら、彼が援護してくれたらしい。
「アイちゃん! 怪我は!?」
こちらに駆け寄ってくるなり、ツヴァイは険しい表情 で問い質した。こんなに焦燥を顕 にした彼を見るのは珍しい。幾分か気圧されつつ、私は答えた。
「大丈夫だ。助かった」
ツヴァイは大きく安堵の息を吐き出した。それから、コツンと私の胸に拳を置く。
「全く、こんな無茶して……肝が冷えたよ」
「済まない」
それよりも、と私は後ろを振り返った。
「セーラは無事か」
彼女は腰が抜けたのか、座り込んだ姿勢で己を抱きしめるように縮こまりながら震えていた。視線は地に落ちたまま、目を合わせようとはしない。
今一度声を掛けようとしたところ、彼女は譫言 のように繰り出した。
「無理……もう、こんなの無理! わたし、絶対死ぬ……殺される!」
叫んで、震えが増す。怯えて引き攣った表情はあまりに不憫で、もし妹だったらと思うと胸が抉られた。
「落ち着け。大丈夫だ」
「うそ! 大丈夫なんかじゃない!」
何とか安心させてやりたくて、屈んで目線を合わせようとするが彼女はやはりこちらを見ようともしない。拒絶するように頭を激しく左右に振り、嘆く。その動きを止めるように私は彼女の肩を掴むと、力強く告げた。
「大丈夫だ。お前のことは私が守る。だから、お前が死ぬことはない」
すると、セーラは虚を衝かれたように固まった。キョトンと見上げる瞳と、やっと目が合う。それに応えるべく、私は逸らさず見つめ返した。
「そうだよ。セーラちゃんは一人じゃない。何の為に俺達が居ると思ってるの? 仲間は助け合うものでしょー?」
横からひょっこり、ツヴァイも加勢する。剽 げたようなわざとらしいいつもの笑みだったが、かえってそれが良かったのかもしれない。セーラもようやく落ち着きを取り戻したようで、小さくはにかんだ。その後、申し訳なさそうに頭を下げる。
「ありがとう……ごめんなさい、迷惑かけて」
「いや」
「いいんだよー。迷惑だなんて思ってないから」
ツヴァイに先に言われた。何にせよ、セーラが正気に戻って良かった。ホッと胸を撫で下ろしたタイミングで、
「けっ、仲間だぁ? クッソさみー」
今度はドライの声が割って入った。こちらの騒ぎが気になったのか、見に来たようだ。先程ツヴァイが来たのと同じ方向から顔を出すと、早速ツヴァイの言葉に食ってかかる。
「オレ達はみんなライバルだろうが。甘いこと言ってんじゃねーよ」
顔を顰めて吐き捨てる彼に対し、ツヴァイはふっと不敵な笑みを零し、
「ああ……もしかして、寂しかったの? ごめんね?」
と、見事に煽ってみせた。
「はぁっ!?」
忽 ち真っ赤に染るドライの顔。もうお決まりの光景だ。
「素直じゃないなぁ。大丈夫、君も仲間外れになんかしないから。よしよし、おいで?」
「てめっ、ガキ扱いすんじゃねえぇっ!!」
「だって、子供じゃん、君」
「子供じゃねええぇっ!!」
私はまたぞろ頭が痛くなってきた。セーラも二人のやり取りについていけず、ポカンとしている。
ツヴァイも、どうして一々煽るのか。ドライはかんかんになって喚いた。
「てめぇ、覚えてろよッ!!」
実に負け犬の遠吠えめいた捨て台詞だったが、思えばこの時のこれが原因で、ドライはあんな報復行動に出たのかもしれない。
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