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運命の相手
「白鬼丸、頼理さまは怪我をしているの。もう少し大切に扱ってあげて」
「どうしようかな」
「ご飯抜きにするよ。毛繕いもしてあげないから」
「しょうがないな。分かったよ」
渋々ながらも頼理さまを肩に担ぐ白鬼丸。僕たちのやり取りを見ていた男のひとが笑いの壺に入ったみたいでしばらくの間笑っていた。
「竜神の許可はもらった。きみを天狗の里に連れていく。こことさほど変わらない。山を三つ越えた先にある。しっかり捕まってろ」
下は真っ暗闇で何も見えなかった。それが余計に怖くて、足がすくみ、体ががくがくと震えだした。思わず天狗の彼の体にしがみつくと、
「どうした?もしかして高いところが苦手とか?」
「……はい」
嘘をついてもしょうがないから、正直に答えた。
「怖い想いをしたから丁重に扱ってくれときみの兄から頼まれた。なるほどな、そう意味か。青丹から実は妹がいるんだと聞いたときは天地がひっくり返るくらい驚いた。だからきみに早く会いたくて仕方がなかった。それなのに青丹はのらりくらりと何かと理由を付けて会わせてくれようとはしなかった。同じ天狗なのに烏は良くて、なぜ俺たちは駄目なんと納得がいかなかった。きみに会って分かったよ。青丹が会わせてくれなかった理由が」
天狗の彼が愉しそうにくくくと笑い出した。
「やはりあなたが藤黄さまなんですね」
「いや、藤黄は弟だ。青丹がきみの話しばかりするものだから、すっかり臍を曲げてしまった。青二才の癖に一丁前に焼きもちを妬くようになった」
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