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運命の相手
「頼理さま」
顔が真っ青になっていた。
「だいぶ生気を吸われていたからな、無理もない」
白鬼丸にも手伝ってもらいなんとか頼理さまの体を起こすと、ギシギシと天井が軋み土ぼこりが降ってきた。何か得体の知れない生物が頭の上を這っているのは確かだった。一刻も早くここから逃げないと。でも頼理さまの体はぴくりとも動かなかった。
「扇子だ」
白鬼丸がぼそっと呟いた。
「なんのために持ち歩いているんだ?宝の持ち腐れだろ」
翡翠さまから渡された扇子を袂から取り出すと、片手でぎゅっと握り締めた。父上、母上助けてください。藁をもつかむおもいだった。
ドーン、バキバキとものすごい音と共に天井が真っ二つに裂けて、見たことがないくらい大きな蜘蛛が口から糸を吐きながら僕たちの頭上に降ってきた。まるで縫い止められたみたく足がまったく動かなかった。頼理さまの体をぎゅっと抱き締めようとしたら、なぜか体がふわりと宙に浮いた。そっと顔を上げると背中に生えている鴇色の大きな羽がまず最初に見えて、それから顔に布をぐるぐると巻いた男のひとと目があった。目の部分だけが出ていた。その人はとても綺麗な目をしていた。
「もしかして藤黄さまですか?」
「ちょっと違うな」
男のひとがくすりと笑った。
「あ、そうだ。頼理さまは?」
下を見ると、青丹さまの肩に担がれていた。
「親父はまぐわいの真っ最中で来れないから、代わりに来た。良かった、間に合って」
「青丹さま、ありがとうございます」
「安心するのはまだだ。白鬼丸、彼を頼む」
白鬼丸が犬型から人型に変化し、頼理さまの首根っこを指で摘まむと、振り子のようになぜかゆらゆらと左右に揺らし始めた。
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