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運命の相手
「鵺がうろついている。外は危ない。中に入れ」
黒檀さまが目をつり上げ怖い表情で頼理さまに近付いていった。
「黒檀さま、待って下さい。頼理さまは手負いの身です」
「危害は加えぬ。案ずるな」
切燈台に灯りをともすと、黒檀さまが頼理さまの顔をじっと見た。
「卑怯者、こそこそ隠れていないで出てこい」
まるで絹糸のような透明な糸が頼理さまの耳から一本出てきた。
「頼理に取り憑いていた物の怪は、翠鳳の力に恐れをなして蜘蛛の子を散らすようにいなくなった。でもこいつは」
そこで言葉を止めると、
「息を止めろ。すぐに終わるから少しの間辛抱しろ。逃げられたらもともこうもない」
黒檀様がその糸を勢いよく一気に引っ張った。頼理さまの耳から出てきたのは小さな蜘蛛だった。
「迅はこの土蜘蛛に呪詛を込めた。頼理に取り憑き殺すのが当初の目的だったが、頼理がりんに会ったことを知るや否や、目的を変えた。そうだろ?」
黒檀さまに凄まれても蜘蛛は動じなかった。
それどころか糸を吐き出し、黒檀さまの手に幾重にも絡ませた。
黒檀さまがぐにゃりと土蜘蛛を握り潰した。
「白鬼丸、りんと頼理を連れてすぐ逃げろ。もっと大きいのがいる」
天井をちらっと見上げた。
「やたらと蜘蛛が多いなとは思ってはいたんだ。なるほどな。りん、翠鳳を呼べ。娘の一大事だ。すぐに駆け付けてくれる」
「はい」
「りん、行こう……うっ……」
うめき声をあげると頼理さまが膝から崩れるように倒れ込んだ。
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