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運命の相手

「追っ手が来た。早いところずらかるぞ」 「なんでここにいるのが分かったんだ?」 藤黄さまのお兄さんが空を見上げた。 「コイツが居場所を迅に教えているんだよ」 一羽の烏が木の上で羽を休めていた。よく見ると足が三本あった。 「あれが神の使いの八咫烏だ。一番会いたくない奴だ」 「あの、藤黄さまのお兄さん」 「あれ、まだ名前を言ってなかったか?」 「はい」コクりと頷くと、 「黒緋《くろあけ》だ。ちゃんと掴まってろよ」 ふわりと体が宙に浮き横に抱っこしてもらった。落とされないように首根っこに腕を伸ばしぎゅっとしがみついた。白鬼丸が籠を背負うと一緒に来ていたもうひとりの天狗が白鬼丸を抱き抱えた。 数十羽の烏の集団ががどこからか飛んで来て、反射的に身構えると、 「彼らは俺たちの味方だ。安心しろ」 黒緋さまがクスッと笑った。 「敵の数、数百」 集団の中に一匹だけ白い烏がいた。 「そうか、分かった。しかしまぁ、しつこい連中だ。地獄の果てまでも追ってくるつもりでいるのか」 黒緋さまがやれやれとため息をついた。 烏たちが教えてくれた通り大勢の兵士たちが手ぐすねを引いて待ち構えていた。 「国に災いをもたらす元凶だ。殺せ!」 馬に股がった男が野太い声を張り上げると、一斉に弓を構えた。 「弱いものをいじめるのはお止めなさい」 老僧がどこからともなく姿を現した。よく見ると、目は三つあり、握っていた杖にはしゃれこうべをつけていた。

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