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運命の相手

「さてはお前も仲間だな。こいつも殺せ!」 兵士たちが見上げれば見上げるほど、まるで入道雲みたく老僧がどんどん大きくなっていった。 「見越し入道だ。姿は見えぬが兵たちに石を投げているのがしばかきだ。翠鳳の娘を守るんだとみな息巻いている」 黒緋さまの言葉に驚いた。親に見捨てられ、誰からも振り向きもされてこなかったのに。 「何もしていないのに、なんで?」 「してるじゃないか?きみが気付かないだけだ。今のうちに逃げるぞ。あとは任せた」 烏たちからは「任せておけ」と力強い返事が返ってきた。 執拗に追い掛けてくる追っ手をなんとか振り切り人間界とあやかしの世界の境界線にある大きな川のところにようやく辿り着いた。 「りん、アイツを知ってるな?」 黒緋さまに言われそっと下を見ると、そこには大勢の兵に守られた牛車が停まっていた。簾を少し開けて外の様子をちらちらと伺うのは間違いなく迅だった。 「一番会いたくないと顔に書いてある。左様相違ないか?」 黒緋さまも何もかもお見通しだった。 迅は何をしにこんなところにいるんだろう。退屈そうに欠伸をしながら川のほうを見ていた。視線を向けようとしたら、大きな手が視界を遮った。 「見ない方がいい。俺たちには気付いていないようだから、このまま静かに立ち去ろう」 黒緋さまが小声でまわりにいる天狗たちに指示を飛ばした。牛車の上を素通りし川を渡ろうとした時だった。 「りんの癖に生意気な。ボクをシカトするとはねいい度胸をしてるね」 迅の声はよく通る。鋭いナイフみたいに心に突き刺さる。氷のように冷たい目で睨まれれば怖くていつも動けなくなる。

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