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運命の相手

「聞かぬは仏だ」 黒緋さまが前をじっと見据えた。 「無礼な奴だ。挨拶の仕方も分からぬとはな。これだから国が乱れるんじゃないのか」 黒緋さまではない声が上から聞こえてきた。 ドキッとしてあたりをキョロキョロと見ると白い烏と目が合った。 「こんにちは。さっきは助けていただきありがとうございます」 呑気に挨拶をしている場合じゃないけど、何事も挨拶が基本。最初が肝心だもの。ぺこっと頭を下げると、 「肝が座っているな。さすがは俺の青丹の妹」 くくくと笑い出した。 あれ、さっき俺のって。聞き間違いじゃないよね。聞き返そうとしたら、 「たかが烏一匹と天狗に何を手間取っているんだ!さっさと撃ち殺して!」 迅が外に飛び出してきた。白い着物に赤い袴、神社でよく見かける巫女の格好をしていた。 「白い烏も八咫烏も神様のお使い。殺すなどできません。祟られます。どうかお許しください」 兵たちが土下座し額を地面に擦り付けて謝った。 「役立たず!」 迅が弓を手に取った。 頼理さまが待っている天狗の長の屋敷にどうやって帰ったのかよく覚えていない。気付いたときには布団の上に横になっていた。 「なかなか帰ってこないから、りんに何かあったのではないか、気が気ではなかった。良かった無事で」 ほっとして胸を撫で下ろす頼理さま。顔色が悪い。 「具合が悪いのに、寝てないといけないのに、すみません巻き込んでしまって」 起き上がろうとしたら、 「頼むからこのまま横になっていてくれ。私は巻き込まれたとは思っていない。私のこそりんを巻き込んでしまいすまぬ」 頼理さまが頭を垂れた。

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