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僕が選んだのは
「りんちゃんが帰ってきたからもう迷うことはないわ。ひとまず安心ね」
「そうね」
兄上と藤黄が頼理さまを探しに行ったから心配しなくてもそのうち来ると黒緋さまが教えてくれた。
父上と母上は同じ敷地内にある母屋で待っているみたいで、頼理さまが来たら一緒に挨拶にいけばいいと白鬼丸が言ってくれた。
雲ひとつない澄んだ青空はいつの間にか茜色に染まりはじめていた。
頼理さまはまだ来ない。白鬼丸も黒緋さまも待ちくたびれで座ったまま寝ているみたいだった。
どうしよう。緊張してきた。
頼理さまに会えるのはすごく嬉しい。でも一年も離れ離れになっていたんだもの。
考えたくはないけど、平安時代は一夫多妻。頼理さまは東宮ではないけど帝の長男。自分の娘を嫁がせたい貴族はたくさんいる。もし奥さんがいたら、僕より好きなひとがいたら……。そう思うと胸がぎゅっと締め付けられて。息ができないくらいに苦しくなった。
「りん、枕元にある文箱を見てみろ」
「ごめんなさい起こして」
「大丈夫だ。寝ていなかったから」
白鬼丸に言われた通り漆塗りの文箱の蓋を開けると、綺麗に折り畳まれた和紙がたくさん入っていた。
そのうちの一枚を手に取りそっと広げると、ぎっしりと文字が書かれてあった。
「達筆過ぎて読めない。何て書いてあるんだろ」
ちゃんと古文の授業を受けておけばよかった。今さら後悔しても遅いけど。
「黒緋曰く、りんに向けた熱烈なラブレターだそうだ。一年間、毎日欠かさず書いていたそうだ。文箱が五箱分もあるそうだ。頼理は心変わりしていないから安心しろ」
「そうだぞりん。右大臣と左大臣から娘をやるとしつこく言われても自分には竜神と八咫烏が決めた妻がいると頼理は決して首を縦に振らなかった」
黒緋さまがゆっくりと目を開けた。
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