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第11話

 箕田の家に戻り、リビングに入ったところで、箕田から封筒を渡された。 「はい、これ。本日のアルバイトの日給二万円」 「え、でも、まだ明日の昼まで――」  箕田はダウンコートを部屋の隅のハンガーラックにかけている。 「うん。だけどあとは、仮眠を挟んでもらうだけだから」  想定よりも、早く帰宅できたからと言いながら台所を確認し、食器が片付いていることに宗谷に礼を言った。 「そう言えば、望、きみは冬の間のアルバイトを探していると言っていたね」 「ああ」  脱いだジャケットをたたんで、ソファの端に置いたとき、背後から腕が伸びてきて、箕田にふわりと抱きしめられた。 「箕田さ――」 「僕の名前は、一暁(かずあき)と言うんだ。名前で呼んで」  背中から箕田の温かな体温と鼓動が伝わってくる。 「……僕の家で、住みこみのアルバイトはどう?」  その囁くような声は、鼓膜に柔らかく響く。 「サンタはクリスマスが終わっても、この時季は忙しいんだ。家を留守にすることも多い。きみなら、安心して潤を頼める」  箕田の鼓動とは別に、もう一つ速い鼓動が聞こえてくる。  高鳴るそれは、宗谷に期待と緊張を伝えてくる。 「……家事代行として、か」 「もちろん、お給料はお支払いするよ」 「そういうことじゃない」  分かるだろと背後を振り返れば、自然箕田と向き合う形になる。  宗谷に見つめられて、箕田は照れたように視線を流した。 「……将来のママとして?」 「パパだ」  すかさずの訂正に、箕田は一瞬目を見張った。しかしすぐにいつもの微笑みに戻り、ぎゅっと宗谷を抱きしめた。 「ありがとう」  しばらくそうしていると、宗谷の肩口から箕田が呟く。 「我が家のシャンプーの香りだ」 「さっき、潤と一緒にお風呂に」 「潤と?」  小首を傾げる箕田に、早速危惧していたあらぬ疑いが生まれかねないと宗谷は焦った。 「潤が、いつも一緒にパパと入っているって」 「僕は潤と一緒にお風呂場には行くけど、服は着たままだよ。頭は洗ってあげるけど、一緒に湯舟に浸かることは、最近忙しくてできなかったんだ」 「えっ……」  目を瞬く宗谷に、箕田はふふっと微笑んだ。 「……きみがいてくれれば、潤の願いどおりに、最初のクリスマスプレゼントも叶えてあげられそうな気がするよ。どう? 見習いパパとして、ここに住みこみするのは」  もともとアルバイトを探していた宗谷にとって、特に不自由のある誘いではなかった。  それにこの家で生活していれば、箕田とともに、潤とのあの温かな時間をまた過ごすことができる。 「本当に、いいのか」 「もちろん」  箕田から向けられるその笑顔に、心が安らぐ。それと同時に、期待が湧き出すような高揚感も感じていた。  新たな日常が始まる、そう思った。  そうそれは、朝起きたら、サンタからのクリスマスプレゼントを見つけて、高鳴る鼓動とともにそれを開いたときのような――。 (終)

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