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46.プレゼント

   * * *  ソラとの共同実験は無事成功し、プラドは予定通り街への計画を練る。  とはいえプラドとて倦怠期対策に何をすれば良いのか分からない。  恋人が居たこともあるが、倦怠期になったからといって焦った事も対策を練った事も無いからだ。 「プレゼントですよプレゼント!」 「ここはやはりサプライズで心ときめくプレゼントを用意すべきです! それでばっちり繋ぎ止めておけます!」  そこでトリーとマーキに話をしてみたら、プレゼントを贈るべきだと助言する。  ちなみにこの二人、恋人が居たことなど無い。完全に当てずっぽうである。 「プレゼント、か……」  それでもプラドは悪くない案だと思い、さっそくソラへの贈り物を考えだした。  だが、ソラが喜ぶ物をと考えても、本と魔石しか思いつかない。  貰えば確かに喜ぶだろうが、なんだか違う気がする。  そもそもソラは自分で選ぶほうが好きだろう。  だったら他に何を贈るべきか。頭を抱えながらもプレゼントは決まらず、街に出る日が来てしまった。  授業を終えた二人は、ローブ姿のまま街にくり出したのだ。 「……食事の前に何か買いたい物はあるか?」 「いや、実験素材は足りている。思ったよりたくさん持っていた」 「……整理したからだろ」  やはりソラは、本と素材を求めてしか買い物をしない。  街に出てソラの興味の有りそうな物をリサーチしようとしたが、どうやらそれも当てが外れそうだ。 「じゃあ何か食べたい物はあるか?」 「ふむ……今日は祝いなのだな?」 「あぁ」 「ならば、今日はケーキを食べても良いのだろうか?」 「……祝いじゃなくてもケーキぐらい食べていいぞ」  よくよくソラに話を聞けば、王都で食べたクリームの乗ったパンケーキがお気に召したようだ。  ならばと似たような店に案内し、ソラの代わりに注文を済ませる。  相変わらず不器用だが一生懸命パンケーキを食べるソラを見ながら、いつかケーキ専門店に連れて行ってみようと思った。  そんな幸せな時間だったが、やはりここでも気になる仕草があった。  ソラが口元にクリームを付けていたので、そっと指で拭おうとした時だ。  す……っ、と、ソラの体が後ろに傾き、自分で口元についたクリームを取った。 「付いていたのか」 「……あぁ」  親指についたクリームを舐めとり、再び何事もなかったかのように食事を続けるソラ。  だがプラドはもう、穏やかな気持ちでソラを見守るどころでは無くなった。  避けられた。あれは、避けられたのだ。 「……」  プレゼントだ。プレゼントしかない。  ソラの心を繋ぎ止めておくためにはもうそれしかない。財力に物を言わせて片っ端から心の隙間を埋めていこう。  最終的に二人の愛の巣を買って毎朝クリームたっぷりのパンケーキを焼いてやろう。  もうそれしかない。  思考が暴走し始めたまま店を出て、プラドはソラに告げる。 「なぁメルランダ。買い物はないっつってたが、そろそろサラマンダーの粉が無くなりそうじゃないか?」 「そうだったか?」 「あぁ、俺は毎日お前の部屋を見ているからな」 「そうか」  だから今日のうちに買っておけと、やや強引に素材屋に連れて行く。  そして自分は外で待っているからと送り出し、ソラが店に入ったのを確認したら猛ダッシュで近場の露店へ駆けだした。  まずは何気ないプレゼントから。  一番手軽なのはアクセサリーだろう。  ソラが着飾るイメージは無いが、今はそれしか思いつかなかったのだ。  首飾り、イヤリング、ブレスレット、アンクレット。  露店にならぶ装飾品はどれもこれもソラに似合いそうだったが、ソラが喜ぶイメージがわかない。  いっそ全部買い占めようか、と考えた時、隅にある装飾品が目についた。  細かな青い石の装飾がついた髪紐だった。  濃い色と薄い色の青い石が散りばめられた髪紐は、ソラの空色の髪を美しく飾るだろう。  シンプルだから学園で使っても問題ないはずだ。 「そこの髪紐をくれ」 「はいどーもー。プレゼント用っすか?」 「そうだ」  若い店員が小さな紙袋に入れて簡単にリボンをかけてくれた。  チャラそうに見えるがなかなか丁寧な包装にプラドは満足して受け取る。  よしまずはサプライズでこれを渡して── 「──……買い物は済んだか?」 「……っ!? おま、居たのか!」  ソラを驚かせようと企んでいた隣にすでにソラがいて、プラドは危うく袋を落としそうになる。  隣に立っていたのに気づかないほど熱中していたようだ。 「ひゅーぅ! びっじんじゃーん。お兄さんいい買い物したね」 「……」  茶化す若い店員をひと睨みしてソラの肩を抱き立ち去る。  しかし小さな紙袋をジッと見つめるソラに、すでにサプライズが失敗している事を悟った。  

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