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第21話 仲間を集めよう

 何食わぬ顔で学園に戻り、ロイは当たり前のような顔をして聖女アーシアの前に立った。 「今食事中」  アーシアはロイを軽く見ると、すぐに食事を再開した。夜の定食らしく、可愛らしいデザートまでついている。魔術学科の生徒は、騎士科の生徒に比べれば少食で、体も小さい。体を動かすより、頭を使うから、肉よりも糖分を欲する傾向がある。  よって、主食とおなじくらいのデザートがついてくるのだ。 「今日はフルーツタルトかぁ」  綺麗な色をした果物が、硬いクッキーでできた器にクリームと一緒に押し込まれている。実家で父親と一緒に夕食を済ませてきたロイは、お腹がいっぱいではあった。だが、フルーツタルトはなんとも目が欲しくなる。 「あんた騎士科じゃない」  アーシアはそう言って、フルーツタルトを口に運んだ。実技で魔力を使ったから、体が色々欲しがっている。アーシアは幸せそうな顔をして、夕食を食べ終わらせた。 「ねぇ、アーシア」  礼儀として、アーシアが食べ終わるのを待っていたロイは、ようやく話しかけた。 「なんの用?」  口の端についたクリームを拭きながら、アーシアは目線だけをロイに向けた。ぶっちゃけアーシアはロイになんて用はない。 「ダンジョン行こう!ダンジョン」  ロイは必要なことだけをすっぱりと口にした。 「はぁ?あんたいきなり何言ってんの?」  アーシアの反応は至極当然のことなのだけれど、ダンジョンと言う単語が聞こえては、食堂にいる生徒たちは聞き耳をたてる。ロイの実家であるウォーエント子爵領にダンジョンがあることは、有名なことだ。授業でダンジョンに挑むけれど、それは王都から近い場所にあり、難易度も低い。 「今さ、セドの剣を作ってるの。だから、完成したらダンジョン行こう」  ロイがそう話せば、アーシアはようやく合点がいった。キーワードはセドリックの剣だ。ゲームでは、セドリックの剣を作るのはミニゲームだった。素材を集めるのにパズルゲームするのだ。学園の中や王都の中を探検して、素材を見つける。そこにいる守護者とパズルゲームで対決をして勝てたら素材が手に入る。  流れとしてはそんな感じだった。  だから、アーシアは単純にロイとセドリックが素材を集めて工房に依頼した。程度にしか思っていなかった。 「いつごろできるのよ。剣は?」  アーシアがそう聞くと、ロイは首をひねった。よく考えたら、製作期間なんて聞いてなかった。魔石の加工が、どれくらい手間がかかるかなんて知らない。鉱石を溶かして加工するのにどれほどの日数がかかるかも知らない。 「わかんない」 「はぁ?」  ロイの答えにアーシアは大分低い声を出した。相変わらずロイは抜けている。肝心なことを知らないのだ。 「でも、ゲー………あ、うん、1ヶ月もあればできるんじゃないかなぁ」  思わずゲームでは、次の月になると完成していたよね、なんて、言いそうになった。だから慌てて言い直す。 「ほんと、バカ。剣が出来たら教えて」  アーシアはサラリとかわして返事をする。ロイにつられて転生者だなんて知られるわけにはいかない。 「アーシアは、光魔法使える?」  アーシアの返事を快諾と受け取ったロイは、アーシアから肝心なことを聞くのを忘れていたことを思い出した。 「何言ってんの?」  アーシアは怪訝そうな顔をしてきた。聖女であるから、光魔法が使えて当然だ。ゲームもしてきた転生者であるなら、知っていることだ。だからこそ、アーシアはそんな顔をしたのだけれど、ロイが聞きたかったのは、初期の光魔法ではない。 「あのね、行きたいダンジョンにアンデッドが出るんだ。だから、結構強い光魔法がいいんだけど」  ロイがサラリとそんなことを言ってきたから、アーシアは驚きすぎて口が開いたままだ。 「うちの領地にある砦のダンジョンなんだけど、昼間でもアンデッドが出るんだよ。だから、強い光魔法の使い手が欲しいんだ」  ロイの説明を聞いて、アーシアはようやく理解した。ゲームで出てきた上位のダンジョンだ。親密度が高くなければ挑めない。  けれど、ロイは騎士科の主人公であるから、自分でダンジョンが選べるのだ。そもそも、ダンジョンに潜るのにロイは許可がいらない。パーティーメンバーを選んで誘うだけだ。 「光魔法の使い手を探しているのなら、是非ご一緒させて頂きたいですね」  アーシアが考え込んでいるすきに、テオドールが割り込んできた。テオドールは魔術学科の総代であるから、学年の誰よりも魔法を使いこなせる。 「これで、四人揃ったわね」  ゲームでのパーティーは四人編成だった。アーシアが主人公の場合、レイヴァーンの好感度が高いと自動的にテリーがついてくる。テオドールの時は、セドリックだ。  アーシアが喜んで手を叩いた時、アーシアの顔に影がかかった。 「私も是非に参加したいものだ」  ロイが攻略なんかしていないのに、アレックスがやってきた。当然、その隣にはテリーがいた。 「私も光魔法が使える。それに、セドリックの英雄の技を見てみたい」  アーシアからしたら、隠しキャラ的扱いの第二王子アレックスだ。アレックスが所属しているのが騎士科であるから、テリーがついてきたというわけらしい。四人パーティーだと思っていたのに、六人になった。  ダンジョンを一緒に攻略すれば好感度が上がるから、アーシアとしては願ったりだ。けれど、六人でダンジョンを歩くのはなかなか面倒そうだ。それに、ダンジョンまでゲームでは転移魔法で移動していたけれど、アーシアはまだ自分にしか転移魔法がかけられない。 「転移魔法使えるの?」  ロイがテリーに聞いた。王子の護衛であるからには、テリーは自分ともう一人にぐらいは転移魔法をかけられるはずだ。 「もちろんだ」  テリーの答えにアレックスも頷いた。 「私の護衛をするからには、当然のことだ」  アレックスがそう言いつつも、結構なドヤ顔をしているのに気がついて、アーシアは慌てて顔を背けた。このまま見続けたら笑ってしまう。 「なにも転移魔法を各自バラバラに発動させる必要はないでしょう。正確な場所はロイしかわからないのですから、皆で一斉に飛べば済む話です。魔力量は全員豊富なのですから」  テオドールがそう言えば、アレックスが頷いた。そもそも、ここにはいないが、肝心のセドリックは転移魔法を操れなかったはずだ。 「剣ができるまでセドも転移魔法をマスターするからさ、よろしくね、アーシア」  あくまでも、アーシアを誘ったつもりのロイは、若干背中を向けているアーシアに話しかける。ここは魔術学科であるから、アーシアのゲームであるはずだ。だから、同行を申し出てきたメンバーは、アーシアが攻略中だと思っているのだ。体感で、アーシアが怒ると怖いから、ロイは意識して邪魔をしないようにいているのだ。 「わかったわ」  そう、返事だけをするつもりで、アーシアはロイの方を見たのだけれど、周りの視線が恐ろしいことに気がついた。そもそも、アレックスを出す条件を満たしていなかったから、ここで出てきたのは完全にロイのルートだとは思っていたが、それにしてはアーシアに対しての視線がキツイ。正直殺されそうなレベルだ。  これは完全に、ロイが攻略方法を間違えている。 (プレイしたことがないとは言っていたけれど、ロイ、あんた仮にも王子をどんだけ放置したのよ)  出会っておきながら、攻略対象者を放置してしまうと、悪評がたったり、攻略中の相手の好感度が下がったりするのだ。ようは貴族の横のつながりの弊害のようなものなのだけれど、表面上はみんな仲良くということなのだ。しかも困ったことに、王子はヤンデレ化しやすい。出現した王子を放置してはならないのだ。  だがしかし、どう見てもロイは王子を放置したとしか思えない。  王子が出現したら、毎日挨拶をしないとダメなのに、おそらくしていない。ただでさえ第二王子だというのに…… 「では、私はこれで失礼しますわ。夜更かしはお肌に悪いのでぇ」  この場合、ストレスが美容の大敵だろう。アーシアはからの皿がのったトレイを持って、そそくさとその場を離れた。実家で夕飯を食べてきてしまっているロイは、アーシアがいなければここにようはなかった。 「じゃ、剣ができたら連絡するね」  ロイはそう言い残して転移魔法を発動させていなくなった。テオドールはアレックスの顔を確認すると、一礼して立ち去った。こちらはきちんと徒歩である。テオドールの行き先は、自室ではないのは当然だった。

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