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37 熱い想い 1
オーストラリアへ留学を控えた尚樹の部屋は、大学の資料や書きかけのレポートでいっぱいだった。
「ここからも海が見えるんだね」
「あの島とは全然違う、汚れた海だよ」
「でも……夕陽が綺麗だ」
服部がいた研究所から二人で抜け出し、新幹線に乗ってここまでやって来た。
新幹線の中でずっと繋いでいた手を、窓辺に立つ今も離せない。
「グレートバリアリーフの夕陽も一緒に見よう。向こうの研究機関は充実してる。ホワイト・シンドロームを解明したら、竹富島の珊瑚も救えるはずだ」
服部のいるあの研究所に、もう広海は戻ることができない。
それを百も承知で、服部の命令に服従しなかったのだ。
職場も立場も失った広海に、尚樹は新しい研究の場を用意してくれた。
「本当に、君の留学に同行しても構わない?」
「ああ。そのつもりで雨宮教授にはもう話を通してある。広海さんの就職先の推薦状も、教授が任せておけって」
「雨宮先生のご迷惑にならないかな。服部理事長が私のことを全国の海洋系大学や学部に通達したら、学会から追放されるかもしれない」
「海礁と海棲哺乳類じゃ、学派が違う。それに年の功の人脈もあるしな。雨宮教授、広海さんのことをよく覚えてたよ。出来のいい教え子は忘れないんだ、あの人」
恩師である雨宮教授の厚意が、広海はこの上もなくありがたかった。
服部のもとを離れて、研究者としてこれからも生きて行くことができる。
グレートバリアリーフという海礁学の本場で、珊瑚を救う方法を探すことができるのだ。
「雨宮教授が、広海さんを連れて研究室へ顔を出せって。明日早速行くけど、いいか?」
「うん。お世話になります」
よし、と言って、尚樹は着衣越しの広海の腰を抱いた。
「それまでの間は、俺が広海さんを独占する」
「……随分短いんだね」
「嘘。この先ずっと、あんたは俺のものだ」
微笑み合って唇を重ね、広海は窓から射し込む茜色の陽を浴びながら、ベッドのスプリングを軋ませた。
新幹線の中でこっそりと交わしたキスでは足りない。
鍵を固くかけた部屋で、尚樹の体重を感じながら舌を絡め合わせる。
「ん……っ、尚樹」
口角から零れる透明な糸を、尚樹の親指の腹が拭った。
「ネクタイをしてる姿もいいな。ワイシャツも禁欲的だ」
「皺になる。明日着て行くものがなくなるよ」
「俺のシャツを貸すよ。……だぶだぶの裾とか袖とか、そそる。速攻押し倒してやる」
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