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1.タシュアプケの秋生①

 地球とは違うこの世界で、女と付き合うには厳しい試練を乗り越えなくてはならない。それを成し遂げられなかった男はタシュアプケと呼ばれる。タシュアプケは独身男性、第二市民、半人前、負け犬などの意味を持つ言葉で要は悪口だ。そのタシュアプケが差別から逃れ隠れ暮らしていたのがこの街の始まりで、街の名前もそのものずばりタシュアプケという。  女の得方から察せられるように、この世界では強さが非常に重要視される。男は腕力で強さを誇示し己の地位を確立しなければならない。哀しいことにタシュアプケでもそれは同じだった。不合格者は一律ではなくグラデーションがある。合格ラインに届きそうで届かなかった者と、端から夢も希望もない底辺。序列が生じるのは自然な流れだった。  屈強な者ばかりが勝ち残ってきたこの世界の男の平均像は身長二メートル、体重百二十キロである。それはタシュアプケでもほとんど変わらない。体格で劣る者は目を付けられやすい。喧嘩を吹っ掛けられて負けると犯される。女が一人もいないこの街で、誰もが欲望の捌け口を求めていた。  そんな地上の地獄に異世界転移してしまった人物がいた。中沢秋生は身長百六十五センチ。体重五十三キロ。薄い体毛。中性的な顔立ち。タシュアプケから見た秋生は蹂躙されるためのような存在だった。平和な日本に生まれ育った彼は暴力とは無縁の人生を送ってきた。殴るのも殴られるのも御免だ。だがここでそれは通用しない。秋生も洗礼を受けている。  秋生を保護した者と二人で市場に買い出しに行ったとき、ちょっと一人になった隙に捕まって暗い部屋に引き摺り込まれ、殴られ蹴られ、裸に剥かれた。初めて見る異世界人の肉体に驚いたらしく、加害者たちはすぐには事に及ばずに上下左右色んな角度から隅々まで裸体を検分された。お陰で救出が間に合い、貞操の危機はすんでのところで免れたのだった。この件で秋生は思い知らされた。弱者に人権はない。それがタシュアプケ。この世界のルールなのだと。

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