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第1話

夜の山道では運転は自然と慎重になる。ましてや、だんだんと霧が濃くなり、少し先も見えにくくなるとよけいだ。 広瀬が山間部に仕事で来ており、その日は休みだった東城がそれならドライブしようと、夕方、車で迎えに来たのだ。 秋の山はまだ紅葉にはなりきっていなかったが美しかった。夕日の中、広瀬に頼まれて、さらに山奥に車を走らせた。車は快調に走っていた。 大井戸署で追っている強盗事件の関係者の女性がここで自殺をしており、発見の状況や現場を見に来たので、事件そのものはあまり気持ちのいいものではなかった。自殺者は川で命をたったとされており、その前に、山の中を動いていたらしい。その渓谷は自殺の名所だが、その周辺はハイキングコースになっていた。 自殺したその女性が自分の足で行くことができそうな場所を一通り巡ることができた。広瀬は時々車を降り、地図に記録して写真を撮影した。 そうこうするうちに日が落ちてしまい、山の中で夜になったのだ。山の中といってもハイキングコースがあるようなところだ。他の車が通ることはほとんどないが、道は整備されている。暗いということ以外は困りはしないはずだった。 だが、だんだん霧が出てきて前が見づらくなってきた。それでも東城はそのときまではあまり気にする様子もなく、山道ってこういうことがあるよな、程度のことしか言わなかった。 そして、車を走らせていたのだが、ふと、途中で、「あれ」と東城が言った。彼は、カーナビのスイッチを左手で押した。さっきまでついていた画面がふっと消えたのだ。 カチカチと何度かスイッチを押すがもとには戻らない。 「急に壊れたな」と東城は言った。 そのころには車はかなりふもと付近までおりてきていた。道は1本だったので、カーナビがなくても問題はなさそうだった。 しばらく走っているが、霧のせいで、周りはほとんど見えない。時々街灯が立っていたり、民家があったりしてぼんやりした灯りは窓から見える。 「スマホで現在地わかるか?」と東城は広瀬に聞いた。 広瀬は先ほどからスマホをいじっていた。「ネットつながらないみたいです。地図が表示されません」と広瀬は言った。「個人のも支給のも両方ともだめです」 「ここ、そんな山奥じゃないぞ」東城はさらにスピードを緩め、自分のスマホをポケットから出して片手でロックを解除して広瀬に渡す。「こっちは?」 広瀬はしばらく操作していたが、首をよこにふる。「だめですね」 「お前のタブレットは?」 「さきほど見ましたがだめです」広瀬は再度タブレットを見る。「これがだめになるって珍しいです」実験用のタブレットはかなり弱い電波でも、どこの通信事業者のでも拾う。 「方向はあってるからいいけど、道がよくみえないから、急にまがってたりすると危ないな」と東城はいう。そういった矢先、ぐんと車に軽い衝撃が走った。「あ」とっさにブレーキをかける。「はねたか?」 広瀬はうなずいた。 「人じゃないだろうな」まずいな、と東城はいう。そして、ドアを開けて外に出た。広瀬も一緒に出る。あたりはほぼ真っ暗で霧が立ち込めており、着ている服がじっとりぬれてくるくらいだ。 車のライトに照らされている範囲では、ひいたと思われるものはなにも見えない。

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