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第2話

東城は、トランクから大きな懐中電灯をとりだして、後ろを見る。何もいない。車の下も照らすが見えない。 広瀬は、車が通ってきたほうに向かい、道沿いにスマホで下を照らしながら確認していく。東城も追いかけてきた。「この辺だったよな。当たる前からそれほどスピードだしてないから、距離は短いはずだ」 懐中電灯で照らすと、かなり大き目の石があった。これにひっかかっただけのようだ。東城はほっと息をつく。 石の脇に小さい黒い塊があった。広瀬が近づいてかがんでみると、動物だ。 「たぬき?」と東城は言った。 広瀬はうなずく。「こどものたぬきみたいですね。小さいから」と広瀬は言った。手をのばして触った。 「お前、よく触れるな。衛生的じゃないと思うぞ」と、やや非難めいた口調で言われた。「死んでるのか?」 「いえ、生きてるみたいです。怪我したのか」血が出ている感じはしない。 なでていると急に起きあがった。ピョンと飛び跳ねて広瀬の手を逃れ道の脇にそれる。キュンと鳴き声がした。見ると複数の動物の目がこちらを見ている。じっと動かない。子だぬきは、鳴き声の方に走りさった。動物の目は、こちらの次の動きを警戒しているのか、まだ、じっとしている。 広瀬は静かな動作でポケットに手を入れた。非常食でいつもいれているスティックタイプのスナックをとりだして、そっと道の外の畑に置いた。そして、手を払うと東城の方を向いた。 「たぬきって害獣だろ。その辺の畑あらしてるんだろう。餌なんてやっていいのか?」 「びっくりさせちゃったみたいですから、お詫びですよ。食べないかもしれないし」と広瀬は言った。 まあ、人をひいたのでなくてよかったと東城は言い、車に戻ろうとふりむいた。 その時、ふっと車の前方ライトが消えた。車内灯も同時に消える。車は完全に闇の中に入った。 「なんだ」東城は懐中電灯で車を照らしながら近づく。「なんだよ、これ」ドアをあけるためキー操作するが、ドアがあかなくなっていた。がちゃがちゃとドアをゆするがあかない。 広瀬もドアを見てあかないかどうか試している。しばらくして首を横に振った。 「無理ですね」 「バッテリーがあがったのか。ライトつけてたのそんなに長いことじゃなかったよな」自分に確かめるようにいう。 「そうですね」 広瀬は東城を見る。 「このまま歩くしかないな」東城はため息をついた。自分のスマホを確認している。「電話も通じないし」 「さっき通りがかったところに家がありましたから、そこで電話を借りてみましょう」広瀬は歩き出した。 懐中電灯で先を照らしながら細い道をあるく。むこうのほうに民家の明かりがみえてきた。 「こういうのって、よく怖いドラマであるよな」と東城が後ろから言う。「今日、お前、自殺者の話聞きにきたんだよな」少し声をおとしてくる。「お前、なんか連れてきちゃったんじゃないのか?あのあたり自殺の名所なんだろ」 広瀬は、首をかしげた。そして左肩を触る。「そういえばさっきから左の方が重いんです。冷たい感じが」 東城が一瞬広瀬から身体を遠ざけたような気がした。「お前、それ」 広瀬は笑った。「冗談です」 「こういうときに言うなよ」 自分で話をふっておいて、ひどい返事だ。 「怖がりなのに、そんなこと言ってくるからです」と広瀬はこたえた。 東城は黙っていた。自覚はあるのだろう。彼は幽霊系の話は苦手なのだ。そのくせ、テレビで本当に怖いとか本当にあった怖いといった特集やドラマがあると必ずみている。信じてないといって怖がりながらみているから、その心理は広瀬にはよくわからない。 東城は、広瀬の腕をつかんだ。「なあ、でも、やっぱり変じゃないか」と言う。今度は真剣な声だ。「あんなところで車に入れなくなるし、その前にはカーナビがきれるし。スマホもタブも使えなくなるなんて」 「そうですか?」 「お前、怖くないのか?」 「特には。それよりもお腹すきました」 「ああ、お前にとってはそっちのほうが一大事だよな。さっきのスナック、たぬきにやらなきゃよかったのに」そう言いながら東城は広瀬の腕を離さず、かなり身体を近づけて歩いた。

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