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第3話
民家だと思ったところは、看板がでていた。民宿とかいてある。東城はその寂れた文字にさらに疑念をつのらせている。「これは、怖い話になるパターンだぞ」と何度もいう。
うっとうしいので広瀬は無視して、玄関をあけた。灯りがついているが、受付にはだれもいない。
「すみません」と大声を出してよんでみる。
すると、奥から若い女性がでてくる。エプロンをしていて元気そうな人だ。いっきに場が明るくなる。東城は広瀬の腕から手をはなした。彼女は、広瀬と東城にあいさつをしながら、けげんそうにしている。
「そこで車が動かなくなってしまったんです。電話お借りできませんか?」と広瀬はきいた。
女性は、うなずくが、申し訳なさそうな顔になる。
「それが、さっきから使えなくなってて困ってるんですよ」と言った。
「使えない?」
「はい。携帯も固定の電話もネットも、なんにも使えなくなってしまって。お客さまの携帯も全然だめで。何かあったんですかね」と言う。
広瀬と東城は顔を見合わせた。「テレビではなにかやっていますか?」と東城がきいた。「どこかの通信会社の局が事故をおこしたとか」
「いいえ。何も。明日の朝になったら車だしてご近所に確認する予定なんですけど。今日はこの霧だから外出するのは危ないので」
「そうですか」広瀬と東城は顔を見合わせた。
「あの、もしよければ、今日はここに泊まりますか?車動かないんですよね。今日はお客さん2組で、まだお部屋あいてます」と女性は言った。
他に方策もなさそうなので、二人は泊まることにした。
夕食は、それほど豪華ではなかったが、美味しい家庭料理という感じで広瀬は満足して食べた。
聞くと、この辺の川で魚を釣ったり山で遊んだりする人が泊る宿なのだとと女性はいっていた。一年中ぱらぱらと客はいるようだ。
通された部屋は和室だった。広瀬は、それほど広くない風呂に入り、出してもらった浴衣を着る。廊下にあった自動販売機でビールを二缶買った。東城は、旅館の人と話をしていたが、やがて戻ってきた。
広瀬は、布団に寝そべってビールを飲んだ。スマホもなにも使えないのですることがない。
東城はテレビのスイッチをいれようとしてお金がかかるのに気づき、驚きながら小銭をいれていた。ニュースが流れたがこれといって通信関係の事故の話はでなかった。
「明日はどうするんですか?」東城も広瀬も朝から普通に仕事だ。今日は広瀬が山に行くので余った時間にドライブしようと思っていた程度だったのだ。こんなところに泊まることになるとは思いもしなかった。
「とりあえず、夜が明けたら車みにいって、動かなければ宿の人の車にのせてもらって、近場の駅までいけるようにお願いした。電話が使えないんじゃ、身動きとれないから、探して電話だな。うまい言い訳を考えないとな。車が動かなくなりましてなんて本当のこといったら、バカだと思われる。その程度の嘘しかつけないのかってとられるぞ」
東城は、離れてしいてあった布団をひっぱって広瀬の寝る布団にくっつける。手で広瀬の背中をなでた。
「こういうところに泊まるのはじめてだから、これはこれで面白い」と彼は言う。手が首の後ろにいき、ほぐすようにマッサージしてくれた。
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