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わがまま王子となやまし姫。 後編 ※
身体を拭くのもそこそこに、七海の部屋に戻ってきた二人はそのままベッドへと倒れ込んだ。
「修くんのぼせたー‥」
「俺もー‥」
しばらく二人でボーッと天井を眺めた後、どちらからともなくクスクスと笑い出す。
「のぼせるとかありえねー」
「オレ目の前真っ白になったよ!」
そう言うと、二人の楽しげな笑い声が部屋中に広がった。
指先が触れると自然にその手を握り、横を見てお互い目が合うと唇を重ねる。二人にとってそれはもう普通のこと。
「今日は声、我慢しなくても大丈夫?」
「うん、修くんのアパートよりは大丈夫」
「どうせ壁のうっすーい安アパート住んでますよ」
「あははっ」
「あー‥でもナナ、声大きいからなぁ‥」
「っ‥もー!そういうこと言わな‥っ」
言葉を遮るように優しく唇を塞ぎ、そのまま深く息を重ねる。名残惜しそうに離すと、いつも切ない吐息が漏れる。
「ナナのそういうトコも好きだよ」
「‥修くんのえっち」
「うん、えっち」
「‥修くんってさ」
「ん?」
「‥‥何でもない」
「何だよ気になるじゃん」
「ナイショ!」
いたずらっ子のような笑顔を見せたかと思うと、七海はふわりと修作の上に跨ってその頬を両手で包み、潤んだ瞳で甘い言葉を囁く。
「さっきの続き、しよ」
そのギャップに修作はいつも心臓を突かれる。七海の瑠璃色の瞳に目を奪われたまま、先ほどよりも深く長く、唇を重ねた。
ローションで濡れた修作の指が、七海の中へと入っていく。そのひんやりとした感覚に七海は小さく身体を震わせ、指の動きに合わせて切ない声を零す。ニ本三本と指が増えるにつれ次第に声は大きくなり、下から見上げる修作の身体も、七海のその変化に反応していた。
「ねえナナ‥」
「‥っな、に‥?」
「さっきの‥使ってみたい」
両手で前も後ろも弄られ、回転の鈍くなった頭ではその言葉の意味を理解するのにしばらく時間を要したが、理解した途端、七海は目を見開いて思わず大声をあげた。
「えっ‥‥は?!無理!絶対ムリ!!」
「‥ダメ?」
「っ‥‥」
付き合って分かったことなのだが、修作は時々とてもわがままになる。出会った頃の修作からは想像もできないようなことで、七海にはそれが新鮮で嬉しいことではあるのだが‥稀にこういう予想外の言動をとるので、七海はその度に驚かされていた。
「な‥んでそんな顔すんのさー‥断われないじゃんか‥」
「ちょっとだけだから‥ね?」
「〜〜〜〜もー!!」
眉を下げて少し困ったように笑う修作に、七海は本当に弱い。その勢いに押され半ば諦めの表情を浮かべた七海は、ガジガジと頭を掻いて目を泳がせた。
「ホントに、ちょっと‥だけだからね」
ベッドに仰向けになると、七海は膝を立てて脚を開く。恥ずかしさで顔を腕で隠す姿が余計修作の色欲を煽った。七海から渡された玩具をローションで十分に濡らすと、修作は少し躊躇いながらそれを七海の入り口に押し当てた。
「ナナ、入れるよ」
「‥‥ん‥っく‥ふ、っ‥あっ‥」
既にローションと先走りでドロドロになった七海のそこは、簡単にその異物を受け入れ、あっという間に根本まで飲み込んだ。単純に入れられた快感と、それを見られてるという羞恥心から、七海の身体はビクビクと小刻みに痙攣する。一人でする時とは全く違うその感覚に頭がおかしくなりそうで、七海は必死に声を殺した。
修作がスイッチを入れると、バイブの低くて規則的な機械音が耳につき、さらに内側を刺激するその振動で七海の身体は大きく跳ねる。
「ねぇ‥気持ちいい?」
修作の声が聞こえる。いつも通りの優しい声だが、七海には何だか少し意地悪く聞こえてしまう。きっと今日は、修作に見おろされているからなのだろう。
「や‥あっ、ああっ‥ん、はぁ‥っ」
「これがいいの?声すごいよ‥」
速めに出し入れされてたまらず声が漏れる。七海には一度溢れてしまったそれを止める方法が分からず、自分の口から漏れる喘ぎ声が耳に入ると、脳は更に興奮して快感は増していく一方だった。
(なんか‥なんか‥っ)
全身で感じてトロトロになりながらも、七海は心の中に引っかかっている不安をずっと拭えないでいた。
(これじゃ、一人でしてんのと変わんないじゃん‥)
せっかく好きな人と久しぶりに会えたのに、一緒にいるのに、自分だけが快感に溺れてこんなにも淫らな姿を晒して‥七海はそれが何だか無性に寂しく感じた。
「‥‥っ、やだ‥」
「‥ナナ?」
「やっぱ嫌だ‥こんなんでイきたくない‥っ」
涙声でそう訴える七海に驚いて、修作は動きを止めてはっと我に返る。いつもとは違う七海の乱れ様に夢中になっていて、もしかしたら気づかないうちに傷付ける様なことをしていたのかもしれないと思い、修作は必死にその涙の理由を考えた。
「ごめん俺、調子乗って‥」
結局、明確な答えが出ないまま修作がそう言いかけた時、七海の伸ばした腕が首に絡まりぐっと引き寄せられる。そしてその耳元に、吐息混じりの声で囁かれる。
「修くんのが欲しい‥」
耳にかかる息とその甘ったるい声に、修作はギュッと目を瞑って息を飲んだ。
異物を抜きとると、修作は代わりに自身をゆっくりと七海の中へ挿入させていく。偽物とは違う熱く脈打つ修作自身を受け入れた七海は、その刺激にたまらず艶っぽい声を零し、自ら腰を動かす。
「はぁ‥っ、修くん気持ちいい‥?」
「うん、すごく‥気持ちいい」
「‥よかったぁ」
そう言って嬉しそうに微笑む七海をみて、修作は先程の涙の理由を理解した。
“二人で一緒に気持ちよくなりたい”
七海に合わせて修作も腰を動かし、身体の底からお互いを感じる。
「ナナ‥ナナっ‥」
「あっあ‥ぁ、んっ‥ん、ん‥っ」
ゆっくりと何度も奥まで突きながら、修作は繰り返し七海の名前を呼ぶ。耳を擽るその声と狂いそうなほどの快感で、七海は呼吸の仕方さえも忘れ、頭上のシーツを強く掴んでただ快楽に染まった息を吐くことしかできない。そんな七海の手を取り乱雑に指を絡ませて握ると、修作は貪るようにキスをする。突く度に塞がれた口から甘い声が漏れ、自分のもので感じているのだと思うと激しく興奮を覚えて修作の動きは次第に速くなっていく。
「しゅ‥く‥‥っ修、くん‥」
「あ‥っナナ‥も、イく‥っ」
「っ‥ああぁ‥!」
繋がれた手を力いっぱい握り返すと、七海はもう何度目かも分からない快感に飲まれて絶頂し、強く締め付けられた修作も七海の中で全てを放った。
繋げた身体をゆっくり離すと、七海の口からは切ない声が溢れ、その身体を名残惜しそうに小さく震わせた。修作は七海の身体を自分の方へ引き寄せて座るらせると、心配そうに声をかける。が、七海は俯いたままでしばらく返事はない。
「ナナ、大丈夫‥?」
「‥‥」
「どっか痛かった?」
「‥‥」
「あの‥ナ」
「っ‥」
質問攻めの修作の胸を力なくポコポコ殴ると、七海はため息を吐いてその肩に体重を預けた。
「もう‥絶対やんないからね‥」
「‥うんゴメン、もうしない」
修作は優しく七海の頭を撫でてそっと抱きしめると、幸せそうな表情を浮かべて今の想いを真っ直ぐに伝える。
「好きだよ、ナナ」
「‥うん、オレも‥修くん大好き」
修作の想いに、七海もまた幸せそうな表情で応えた。まだ熱っているお互いの身体を抱きしめ合い、二人は幸せの余韻に浸っていた。
「‥ところで、今何時?」
「えっ‥と、、」
机の上の置き時計に目をやると、只今の時刻4時37分。
「「あーー!!やばい!!!」」
静かな家の中に二人の痛烈な叫び声が響いた。
それからは何だかもうバタバタで。何とか身支度を整えたものの、修作は気持ちを切り替える暇すらなく一ノ瀬家の人々と会うこととなり、話そうと思っていた内容は全て何処かへ吹き飛んでしまっていて愛想笑いと相槌のオンパレード。それを見た七海は一人大爆笑していた。
二人の幸せな冬休みはまだ始まったばかり。
おわり
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