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わがまま王子となやまし姫。 前編 ※

「修くん冬休みこっち帰ってこれるの?!」 文化祭で修作と会ってから、もうすぐ2ヶ月が経とうとしていた。いくら頻繁に電話やメッセージのやり取りをしているとはいえ、そろそろ人肌が恋しくなる頃だ。修作の帰省の話は七海にとって何よりも待ち望んでいたもので、電話先で思わずガッツポーズをしてしまった。 『うん。バイトの休み取れたから、28日から2日までそっち行く』 「やったー!‥あ!」 『うん?』 「修くんさ、ウチに遊びに来ない?」 『えっ?』 「兄ちゃん達に修くんの話したらさ、連れてこいって言われて」 『あ‥うん、分かった行く。‥』 「‥‥イヤ?」 あからさまにテンションが下がったのに気づいた七海は、不安げに修作に声をかけた。 『あっ、嫌っていうか‥めちゃめちゃ緊張してきた‥』 「もう?!早いよ!!」 電話先で大笑いする七海に突っ込む気力もなく、修作は大きなため息を吐いた。 修作のことは兄達も知っている。夏に修作のアパートへ遊びに行ったのをきっかけに、七海が自らカミングアウトした。芸術肌で昔から自由奔放だった七海に、兄達は滅多なことでは動じない。修作とのことも「お前が決めたことなら」と、当たり前のように受け入れてくれていた。‥少々弟想いが過ぎる兄達なので、“可愛い弟を夢中にさせる男”である修作のことが気になって仕方ないのだが‥これは七海の知らぬところだ。 「全然!大丈夫だって!」 お前が大丈夫でも俺は大丈夫じゃないよ‥と思いつつ、修作は「年末ぎりぎりは迷惑になるから」という理由で、28日に新幹線が到着したその足で七海の家へ行くことにした。 「迎え行こうか?」 『ううん、大丈夫。住所教えてくれたら行く』 「分かった、あとでラインしとくね。‥えへへ、楽しみー!」 『おう』 電話を切った後も緩んだ顔を元に戻せないでいる七海は、しばらくスマホを握りしめて、大好きな人に思いを馳せていた。 ******** それから2週間が経ち、待ちに待った約束の日。 「いらっしゃい!」 玄関ドアが開いて七海の声が響く。少し高めで大きな声は相変わらずだ。 「ど、どうも」 「っ‥修くん、顔‥」 「えっ?何かおかしい?!」 「めっっちゃ引きつってる!」 久しぶりに見た修作の顔があまりにも面白すぎて、七海は思わず吹き出してしまう。 「‥あれ?家の人は‥?」 「今みんな出かけちゃってていないんだ」 「そ‥なの?」 修作はホッとしたと同時に何だか一気に気が抜けて、その場に崩れ落ちた。その様子を見て、七海は今度は腹を抱えて笑った。 「いないならいないって連絡くれてもいいじゃん」 七海の部屋に案内された修作は、ふくれっ面で愚痴をこぼす。 「ごめんって。まさかあんなに緊張してるとは思わなくて。オレ、修くんの家行くの全然平気だし‥」 「ナナが緊張しなさすぎなの!」 「そうかなぁ‥あ!今日ね、ちぃ兄も帰ってくるって!みんないるよ!」 「‥‥なんで今そういうこと言うかなぁ‥」 同居している下の兄に加え、下宿中の上の兄も合わせて帰省するという追加情報が追い打ちとなり、修作の胃はキリキリと悲鳴を上げた。 「‥修くん、お帰りなさい」 緊張と慌ただしさですっかり再会の挨拶が遅くなってしまったが、七海の笑顔とその優しい言葉で、修作は地元に帰ってきたんだなと実感する。少し会わない間にまた少し大人びた雰囲気を纏うようになった七海を見て、修作は切ないような恥ずかしいような複雑な感情を抱く。 「‥ただいま」 手を伸ばして七海の頬に触れると、以前と変わらない柔らかさと温かさを感じた。 「あ、修くん!」 「なに?」 「飲み物持ってくるよ!」 「え‥あ、うん、ありがと」 「お湯沸かすの面倒くさいから冷たいのでいい?」 「何でもいいよ」 「わかった!ちょっと待っててねー」 そう言って七海はバタバタとキッチンへ走っていった。 (今、そういう雰囲気だったじゃん‥?) 久しぶりに会ったら一刻も早く好きな人とイチャつきたい。そう思うのが、付き合って10ヶ月遠距離恋愛真っ最中の健全な青少年の思考である。相変わらずマイペースを発揮する七海に、修作は先程から振り回されてばかりだった。 一人残された修作は、改めて七海の部屋を見回す。薄いグリーンのカーテンにナチュラルウッドの机と椅子。本棚にぎっちり詰まった漫画と絵画集が七海っぽいなと思った。 『修くんエッチな本とか持ってないのー?』 ふと、夏に七海がアパートに遊びに来た時のことを思い出した。エロ本の一冊や二冊、年頃の男児にとってあって当たり前なのだが、七海にベッドの下を覗かれそうになった時、修作は正直ドキッとしたのを覚えている。 (ナナもエロ本とか見んのかな‥) ちょっとした好奇心だ。あの時の七海と同じで、見つけたらちょっとだけからかってやろうというくらいの気持ちで、修作はベッドの下に手を伸ばした。 手の届く範囲に本らしきものの感触はない。もう少しだけ手を奥にやってみると、指先にコツンと何かが触れて、おもむろにそれを掴んで手前に引き寄せた修作は、こういうことはするもんじゃないと心底後悔した。 (な、んか違うの出てきたんですけど‥!!) 自分の手の中にすっぽり収まっている、想像以上にリアルなそれを目の当たりにした修作は、あまりの衝撃にしばらく動けないでいた。 世に言う“オトナのオモチャ”が恋人のベッドの下から出てきたら、誰だって驚くだろう。こういう場合、さり気なく元の場所に戻して見なかったことにするのが一番いい。動揺して思考停止していた頭を必死に働かせ、修作がそれを再び元の場所に戻そうとした時だった。 「修くんオレンジジュースでいいー?」 「‥っ、ナナ」 「どうしたの?‥‥っっ」 ‥何故こういう時ばかりタイミングがいいのだろうか。飲み物を持って戻ってきた七海は、修作の手にある物の存在に気づき、目を見開いたままトレーごとそれを落として床にぶちまけた。ガッシャーンと盛大な音を立て、飛び散ったオレンジジュースが修作の服にこれまた盛大にかかった。 「冷たっ!!」 「わーゴメン!タオルタオルっ!」 七海はタンスからスポーツタオルを乱暴に取り出すと、修作にかかったジュースを慌てて拭く。色の白い七海は赤くなるとすぐにわかる。俯いて表情こそ見えないが、長めの前髪の隙間から覗く頬が赤く染まっていて、恥ずかしがっていることが修作にも伝わる。 「‥こういうの、気持ちいいの?」 修作の質問に七海は一瞬動きを止め、真っ赤な顔をさらに気まずそうに歪める。悪気はなく、ただ単純に気になったから聞いただけだったのだが、俯いたまま顔を上げられないでいる七海を見て、修作は慌てて言葉をかけた。 「ご、ごめん別に変とか思ったりは‥」 「どうしても我慢できない時に、その‥修くんのこと思い出しながらして‥たの‥」 最後の方はほとんど聞き取れないくらい小さい声だったが、修作は七海の言葉通りの想像を容易にすることができた。 (やっば、エロすぎ‥) 修作の理性は一瞬にして吹き飛んだ。 「‥ナナ、家の人もう帰ってくる?」 「5時までは‥帰ってこない」 時計の針は1時を少し過ぎたところを指していた。 修作は七海の頬に優しく触れると、ゆっくりと顔を近づける。 「ナナ‥今すっげーエッチしたい」 目の前でそんな言葉を囁かれたら、断る理由なんてひとつもない。送られてくる熱っぽい視線で身体が熱くなり、七海は徐々に近づいてくる修作の紫色の瞳から目が離せないでいた。 「あっ、修くん待って‥」 唇が触れるぎりぎりのところで七海は慌てて修作の口を手で塞いだ。修作があからさまに不満そうな顔をしたので、七海はクスクスと笑って手に持っていたタオルを手渡す。 「修くん濡れちゃってて風邪引いちゃう。それにベタベタだし‥シャワー使って?」 「‥ねえナナ」 ふわりと抱きしめられ、耳元で名前を囁かれる。その擽ったい感覚に、七海は思わず目を瞑る。 「一緒に‥入ろっか」 「‥ん」 修作の服の裾を掴んだ手にきゅっと力を入れると、七海は小さく頷いた。 何度も身体を重ねているとはいえ、数ヶ月ぶりだとお互いの裸を見るのはやはり恥ずかしいもので、緊張と気まずさで相手を直視できず、二人は背中合わせのまま服を脱ぐ。「先入ってるね」と告げた七海を背中で送ると、程なくしてシャワーの音が聞こえてきて、修作は深くて長い息を吐いた。 カラカラと浴室のドアを開けると、七海は相変わらず背中を向けたままで、さらに身体を小さく丸めていた。その様子が何だか可笑しくて、修作は思わず笑ってしまう。 「何で今更照れんだよ」 「だって何か‥自分ちでとか緊張する」 「あはは、そっか。‥洗うモン貸りるな」 修作が壁のフックに掛かったボディタオルを取って身体を洗い始めると、七海は少し躊躇いがちに振り返って修作の手からおもむろにタオルを取りあげた。 「ん?どうしたの?」 「オレが洗ってあげる」 「えっ、大丈夫だよ」 「いいから‥っ」 七海はとてもわかりやすい。普段はうるさいくらい喋るのに、スイッチが入ると驚くほど静かになる。小さくなったまま必死に自分の身体を洗ってくれている七海のことを、修作はとても愛おしく思った。 「ナナ、もういいよ」 「もういいの?」 「うん、交代」 「あ、‥‥」 七海の手からボディタオルを取った修作は、今度は七海の身体を洗い始めた。泡まみれの修作と、修作の手によって同じように泡まみれになっていく自分を見て、七海の鼓動は一層早くなる。 「何か‥泡だらけでエロい‥」 「うん」 「あっ‥」 タオルが胸の突起に触れると、七海は思わず声を漏らした。その声にあてられて修作のテンションも一気に上がり、今度は直接手で刺激する。 「気持ちいい?」 「ん、っ‥あっ‥」 修作の問いに、七海は甘い喘ぎで応えた。 「ナナこっち来て」 七海の腕を引いて自分の方へ引き寄せると、修作はそのまま下半身へと手を伸ばす。ピッタリとくっついた身体からはじんわりと相手の体温が伝わってきて、心臓がうるさいくらい脈を打つ。シャワーの音でそれが聞かれないのが幸いだと修作は思った。 「ここも洗いっこしよ」  「っ‥」 二人のモノを擦り合わせるように、修作はゆっくりと手を上下に動かす。泡と、先から溢れ出たお互いの先走りで滑りの良くなったその部分は、擦れ合う度に熱を帯びてあっという間に限界まで大きくなる。 「ナナ‥これヤバイ‥っ」 「あっ、も‥イく‥っっ」 修作が擦り上げるスピードを速めると、その肩を掴む七海の手に力が入りビクン身体を震わせ、同時に修作も自身を吐き出した。どちらのとも分からない精液と泡でドロドロになった下半身を見て、粗い呼吸をする修作はまだ息の整わない七海を気遣う余裕もないまま、さらに奥へと手を伸ばす。小さく痙攣する入り口に指を這わせると、七海は苦しそうに声を上げた。 「修くん‥‥い‥」 「‥なに?」 「あつ、い‥」 「ん‥えっ‥?あ、ナナ?!」 うーん‥と情けない声を出して、七海はそのまま修作の肩にもたれ掛かってしまった。風呂場には慌てふためく修作の声とシャワーの音がしばらくの間響いていた。

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