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オーマイダーリン 後編 ※
「修くんちょっと待ってて、カバン取ってくるね!」
いくつかの教室を見て回ったあと、修作は七海に案内されて美術室へやってきた。美術部員たちの作品展示を一通り見終えると、七海は自分の荷物を取りに準備室へと走っていった。
ひとり残された修作は壁に掛かった時計に目を向ける。3時を少しまわったところで、気がつくと文化祭初日の終わりの時刻まで1時間を切っていた。美術室にも数人の見物客がいる程度で、先ほどまで廊下から聞こえてきていた賑やかな声も、いつの間にかだいぶ静かになっていた。
大きな窓から入ってくるほんのりオレンジの夕焼けの色にふと懐かしさが込み上げ、
「お待たせ!」
そう言われて振り返り、オレンジに染まる七海の姿を見たら、張り詰めていたものがプツリと音を立てて切れる。
「‥ナナ、最後に行きたいとこあるんだけど」
「ん?いいよ!行こー!」
理性というのはいとも簡単に崩れるものだと修作は思った。相変わらず無邪気に笑う七海に後ろめたさを感じながらも、その胸は否応なく高鳴るのだった。
すっかり人のいなくなった第二校舎と第三校舎を繋ぐ渡り廊下を言葉数少なめに歩く修作に疑問を感じ、七海はその背中を追いながら声をかける。
「修くんこっち何もな‥‥あ、」
そう言いかけて、七海は廊下を曲がったところでハッとする。タイミングを図ったように手を握られ、振り返った修作が笑うのを見て、七海は久々に心臓が跳ねるのを感じた。
【学校関係者以外立ち入り禁止】と書かれた貼り紙をすり抜けて、二人は廊下をさらに奥へと進んでいく。第三校舎2階の一番奥にある、かつて幾度となく訪れた場所。
「うわ、懐かしー」
「オレもここ来るの久々だよ!」
そう言って、七海は以前と同じように窓を開ける。 薄暗くて埃っぽい空き教室は、不要になった備品や脚の歪んだ机が雑然と並んでいて当時とほとんど変わっていない。そして教室を染めるオレンジもまた。‥まるであの頃に戻ったような、不思議な錯覚に陥る。
窓を開け終えたタイミングで身体を引き寄せられ、バランスを崩した七海は修作の腕の中にすっぽりと収まるように倒れ込み、後ろからギュッと抱きしめられた。
「やっと二人きりになれた」
「‥うん」
くるりと向きを変えて修作と向き合うと、七海はゆっくりと背中に腕を回して抱きしめ返し、その温もりを確かめる。
会いたかった
胸に溜め込んでいた気持ちを伝え合うと、二人の距離は一気に縮まる。
「ナナ‥」
しばらく抱き合い、さっきまでと明らかに違う声色で不意に名前を呼ばれて、七海は少し緊張しながら顔を上げる。クンっと軽くつま先に力を入れると、すぐに唇が重なった。
この教室で修作から誘われるのは初めてだ。あの頃ずっと避けられていたキスも、今はこんなにたくさんしてる。それだけで七海の気持ちは高ぶり、それは修作もまた同じで。 触れるだけのキスを何度もして、そのたびに七海から香る化粧品の仄かな甘い匂いにあてられて、高揚感に抗えない。
「ナナ、本物の女の子みたい」
そう言われた七海は少しだけ切なげな表情を浮かべて修作に尋ねる。
「女の子の方が良かった?」
「ううん、ナナがいい」
修作の答えに耳まで真っ赤にした七海は、恥ずかしさで咄嗟に身体を逸らすが、すぐに修作に捕まってしまう。
「照れてんの?可愛い」
そう言って修作は七海の身体を抱き寄せると、もう一度キスをした。
「その服、すごい似合ってる」
突然そう言われて、七海は面を食らったように固まってしまう。この衣装のせいで今日は色々な人に同じようなことを言われたのだが、それらは七海の心に何一つ響かなかった。しかし不思議なことに、修作にそう言われると途端に身体が熱くなり、鼓動も速くなる。
「っ‥さっきは笑ったくせに」
「あの顔は‥ぷっ‥酷かった」
「えー頑張って自分でやったのにー!」
「ヘタクソ。絵はすげーうまいのに」
「えっ?」
「ナナの絵、スゴかったよ」
七海にとって大好きな絵を褒められることはこの上なく嬉しい。他でもない修作からの言葉に、七海は喜びを抑えきれない。
「へへっ‥ありがと」
それは修作が初めて見る七海の表情だった。 笑顔の七海はたくさん知っているつもりだったけれど、恥ずかしそうに笑う七海に修作の心臓は大きく脈打つ。
「ナナそれ反則‥」
「え?‥っん‥」
七海を引き寄せると、修作は強引にその唇を塞いだ。もう我慢の限界だった。
修作が舌を伸ばすと、七海は口を開いてそれを受け入れ、重ねるようにゆっくりと自身の舌を絡めて先程よりも長く、深くくちづけを交わす。呼吸を忘れるほど貪り合い、息苦しさで七海がうっすら目を開けると不意に修作と目が合い、背中を汗が伝った。湿った水音と時々漏れる吐息が静まり返った教室に響き、それが耳に障って仕方ない。そのうち足に力が入らなくなり、立っていることもままならなくなった七海は必死に修作の腕を掴んでいた。
「ナナ座って。口でしてあげる」
縋るようにしがみつく七海を机に座らせて下着を下ろすと、修作はスカートを捲りあげて小刻みに振るえる七海のものを口に含んだ。
数ヶ月ぶりの感覚に七海はすぐに限界に達し、あっ‥と小さく喘ぐと修作を静止する間もなく口腔内でイってしまった。
「たっ、タオル!タオル!!」
いつも口から吐き出していたことを思い出し、七海は机から飛び降りて慌てて鞄へと駆け寄り、スポーツタオルを手に取る。振り返ってタオルを差し出すのと同時に修作の喉がゴクリと鳴り、七海は一瞬固まった後、わーっと大声を上げた。
「ななっ、何してんの?!」
「何って‥ナナはしてたじゃん」
「〜〜〜っ」
口元を拭いながら平気な顔でそう言い放つ修作に、七海は何も言い返せない。
(あの頃と全然違う‥)
そう思うと七海の身体は益々熱を帯び、徐々に修作を求めていった。
「オレも‥する」
修作の手を引いて床に座らせると、七海は膝をついて修作のベルトに手を掛ける。修作の気持ちいい場所を思い出しながら、七海は熱を帯びて緩く勃ち上がった修作のモノを取り出してゆっくりと舌を這わせていく。修作の身体がぴくんと反応すると、七海はその部分を舌先で丁寧に愛撫し、十分硬くなったところで唾液を溜めた口腔内に含んだ。
四つん這いで必死に口淫をしている七海を見下ろす修作は、平常心を保っていられるはずがない。ましてやこの服装。スカートが揺れる度に好奇心は容赦なく煽られ、腕を伸ばした修作はスカートの裾から覗く七海の柔らかい肌を優しく撫でた。突然の刺激に七海の身体は小さく震え、更に修作は、奥へと指を這わせていく。焦らすようになぞられ、ゾクゾクと体中に走る快感で、七海はたまらず修作のものを口から離し、手を止めてしまう。
「あっ‥そこダメ‥っあう‥ぁ」
「ダメ?こんなになってんのに?」
先から溢れ出たものを撫で付けられてあっという間に潤った秘部は、修作の指を簡単に受け入れ、その中は厭らしくヒクくついてきつく締め付ける。もう一本指を挿れると、修作は七海の中を丁寧に解していく。押し広げられる違和感で七海は顔を歪めて苦しそうに呻くが、すぐにジンジンと疼いてきて、その声は次第に快感の喘ぎに変わっていく。
「はぁ‥っ、修くん‥」
「ナナおいで」
七海が艶っぽく名前を呼ぶと、修作は指を抜き取ってその身体を引き寄せた。
修作の上に膝立ちで跨ると、七海は両手で修作の顔を包み込んで唇を重ねる。もっともっと修作を感じたくて、夢中で舌を絡ませた。
七海の服のボタンを外して肩まで下ろすと、修作は七海から唇を離し、口元を伝う唾液を拭うのも忘れて顎、首筋、鎖骨‥と次々にキスを落として舌を這わせていく。露わになった七海の白い肌はほんのりと赤く色づき、修作が触れるたびに小さく震えた。
胸の突起に唇が触れると七海の身体がピクンと大きく反応し、修作はそこに執拗に舌這わせる。もう一方の突起も指で刺激すると、七海は修作の髪を乱暴に掴んで甘い喘ぎを漏らした。
修作の方に視線を落とすと、先程のキスの時と同じようにはっきりと目が合う。逸らされることのない紫色の瞳に、七海は再びゾクゾクとした感覚に襲われた。
「あっ‥修く、ん‥コッチ見ないで‥っ」
「なんで?」
「恥ずかし‥っん、あぁっ」
チュッと音を立てて乳首を吸われ、七海の身体は大きく跳ねる。
自分がどんなに厭らしい顔をしているか分かるから、七海は慌てて顔を隠そうとするが、修作に両手首を捕まれてそれを許してもらえない。
「やぁ‥っん‥あ、ふ‥ぁっ」
恥ずかしさと気持ちよさで混乱した七海は、目に薄っすら涙を溜め、敏感になった部分を刺激されるたびに一層淫らな声をあげていく。
「ナナのエッチな顔、もっと見せて」
そう言って修作はスカートの中に手を忍ばせると、再び七海の中をかき混ぜた。
上も下も気持ちいいところを容赦なく刺激され、七海の理性はあっという間に吹き飛ぶ。そのうちに指だけでは物足りなくなり、欲しくて欲しくてたまらなくなって、七海は我慢できずに修作にねだってしまう。
「も‥入れて‥、修くんの‥っ」
「ん‥」
七海の中から指を抜いて修作が自身を押し当てると、七海はハッと思い出したように突然修作にストップをかけた。
「どうしたの?」
「服、脱ぎたい‥汚れちゃう‥」
乱れた衣装に視線を送り七海がそう訴えると、修作は少しだけ考えて、そしていつものように眉毛を下げて困ったように笑って答えた。
「俺はこのままがいいな」
「っ‥‥」
(その顔、ズルい‥)
修作の無理なお願いに言い返したい気持ちでいっぱいだが、七海は修作のその表情にめっぽう弱い。もうとっくに限界を超えていたのもあって、七海は小さく息を吐くと修作の首に両手をまわし、ゆっくりと腰を下ろして修作を受け入れていく。
「う‥っあ‥」
「‥っ」
十分に解れた七海のそこは、熱く反り立った修作のものを根元まですんなり飲み込み、一度イって敏感になった先からは、突き上げられるたびに蜜が零れてグチュグチュと厭らしい音を立てる。修作の動きに合わせて七海も腰を上下に動かし、気持ちいい場所に当たると身体を跳ねさせて艶っぽく喘いだ。
「はあ‥っん、あっあ‥っ」
「ナナ、声‥ここ学校だよ?誰か来ちゃう」
「あっ‥っく‥」
修作の言葉にハッとして、七海は慌てて両手で口を押さえる。
すっかり忘れていた。
今日は文化祭。
そしてここは学校の、あの空き教室。
そのことに気づいた七海は異様な興奮を覚え、中で脈打つ修作を容赦なく締め付ける。
「‥っナナそれ‥ヤバい‥っ」
「ふっ‥んん、ーっっ」
奥の奥を突かれると、七海は小刻みに内側を痙攣させて声を殺したまま絶頂し、同時に修作も欲望の全てを吐き出した。
*
美術室から鞄を持ってきていたのが幸いだった。修作に背を向けて、七海は無言で制服に着替える。‥が。
「修くん‥」
「‥はい」
「もーっ!どーすんのさ!明日もこれ使うんだよ?!」
勢いよく振り返って、七海は手に持った衣装を修作の目の前に差し出す。至るところにシミができていて、修作は思わず眉を顰めた。
「‥ごめんなさい、調子乗りました‥」
「脱ぎたいって言ったのにっ!」
今日洗濯したら乾くかな‥とブツブツつぶやいている七海に、修作は恐る恐る声をかける。
「ナナ?」
「なーに?」
「嫌いになった?」
そう訊ねてくる修作は分かりやすいほど凹んでいて、七海はその姿に思わず笑ってしまった。
ホントは全然足りない。
もっともっとしたい。
次はいつ会えるの?
寂しいよ。
言いたいことはたくさんあるけれど、その言葉は今は全部飲み込んで。
「なるわけないじゃん、バーカ‥」
優しく微笑んで唇に触れるだけの優しいキスをすると、七海は机に置いてあった鞄を掴んで、修作を残して教室を出ていく。放心状態の修作は少しの間のあと、真っ赤になりながら慌てて七海を追いかけた。
おわり
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