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第34話 ハヴィシオンからの使者2

「うまい! いやぁ、助かったよ! ありがとう!」  オリビアさんが作ったご飯を、ぱくぱくとおいしそうに食べている男性。年は三十歳前後くらいかな。ローレンスより少し年上という感じ。  今、俺の目の前にいるその男性は無論、ついさきほど家の前に行き倒れていた人だ。怪我をしていたわけでも、具合が悪かったわけでもなく、ただ単にお腹が空いていただけらしい。 「この家の前で倒れたらいいことある、って直感的に思ったんだよな。俺の勘、大当たり!」 「ちょ、直感ですか……」  そんな曖昧なもので行き倒れを決めたのか。なんか、すごいな。 「ええと、オーフェンさん、でしたよね。オーフェンさんは、どちらからいらっしゃったんですか」 「俺はハヴィシオンからきた。ちょいと人探しにね」 「ハヴィシオンから人探し、ですか……探し人はリフォルジアの王都に?」 「ああ。だからリアムさんに頼みがあって」  オーフェンさんはスプーンを皿に置き、ぱあん、と両手を合わせた。 「頼む! しばらく、ここに居候させてくんない?」 「ええと……」 「礼なら必ず後でするから! 今はちょっと金がなくてさ……」  お金がない、ということは当然、宿屋にも泊まれないのか。って、そうだよな。お金があったら最初から行き倒れなんてしないよな。  うーん、助けてあげたいのは山々だけど、この家は俺の家じゃないからなぁ。 「ロー……私の夫が帰宅したら、一緒にお願いしてみましょう。それまではこの家にいてもいいですから」 「マジ!? ありがとう、リアムさん!」  居候させてもらえるかは分からないけど……でもまぁ、ローレンスなら困っている人を無下にはしないだろう。もしかしたら、オーフェンさんの人探しにも協力するかもしれない。 「ところで、人探しってどのような方を探しているんですか」 「んー、悪いけどそれは内緒。でもまぁ、高貴な人とだけ」 「そうですか……」  相手が高貴な人なら、なおさらローレンスが力になれるかもしれない。国王陛下の側近騎士だし、ローレンス自身も伯爵令息だし。俺は……いや、『リアム・アーノルド』は国王陛下しか眼中になかった元公爵令息だからな。力にはなれなそうだ。  そんなお喋りをしていた時だった。まだ夕方なのに、玄関の扉が開く音がした。ローレンスが帰ってきたんだ。いつもより早い帰宅だな。  オリビアさんはすぐに出迎えに行って、俺は……オーフェンさん、客人を一人にはできないのでその場に残った。ほどなくして、ローレンスが顔を出す。 「ただいま。客人がいると聞いたが……」 「おかえり。うん、家の前に行き倒れている人を見つけて。この人だよ、オーフェンさんっていうんだ」  朗らかにやりとりする俺たちを見て、オーフェンさんは「……あれ、俺の勘、マジで大当たり」とぼそりと呟いた。かと思うと、椅子から立ち上がり、ローレンスの前に跪いた。 「お迎えに上がりました、ルーファス様」  突然の動作と言葉に、俺は戸惑ってしまった。え、迎えにきた? それに『ルーファス』ってなんだよ。誰かと勘違いしているのか?  ローレンスを見ると……ローレンスは目を大きく見開いていた。それは戸惑っているというよりも、なんで知っているんだ、と驚いているような顔だった。  な、何? どういうこと? 「……オリビア、今日はもう仕事はいい。帰ってくれ」 「え、あ、はい」 「リアムも。悪いが、少し席を外してくれないか」 「う、うん。分かった」  オリビアさんは家を出て行って、俺は二階の自室へと引っ込んだ。二人が何を話すのか気にならなかったわけじゃないけど、後でローレンスが話してくれると信じて、盗み聞きしたりはしなかった。  寝台の上で膝を抱え、ただ黙ってローレンスがくるのを待つ。  どれほどの時間が経ったんだろう。運悪く部屋の時計が壊れていて、正確な時間が分からない。でも、体感的には二時間は過ぎたように思えた。  やがて、扉をコンコンとノックする音が鳴り、扉が開いてローレンスが顔を出した。 「待たせてすまなかった。もう一階に下りてきても大丈夫だ」 「あ、うん……」 「お腹が空いただろう。一緒に夕食を食べよう」  一階の食堂に行くと、オーフェンさんの姿はなかった。 「ローレンス。オーフェンさんは?」 「客室だ。今夜はウチに泊まらせることにした」 「そっか」  俺は台所に立ち、オリビアさんが作ってくれた夕食を温め直して、器によそう。ちょうどぴったり二人分だ。 「ローレンス、はい」 「ありがとう」  熱々のスープが入った器を食堂のテーブルに置いて、向かい合わせに座った俺たちは夕食を食べ始める。オーフェンさんとの話をすぐにでも聞きたかったけど、ローレンスにも話すペースというものがあるだろうし、ローレンスから話を切り出すのを待った。  無言で夕食を食べること、十分ほど。 「リアム。ちょっと、話を聞いてもらってもいいだろうか」 「う、うん。もちろん」  ついにきた。一体、どんな話なんだろう。ハヴィシオンの人から迎えにきたと跪かれたこととか、『ルーファス様』と呼ばれていたこととか、気になることはたくさんある。 「上手く話せるか分からないが……まず、オーフェンはハヴィシオンの侯爵令息だ。任務を背負ってリフォルジアまできた」 「任務、って?」 「ハヴィシオンの現国王政権を倒す革命軍の旗頭、つまり次期国王となれる人物――元第二王子『ルーファス』を探して連れ帰ることだ」

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