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第1話 うっかり婚約破棄をしてしまった

―――うぐっ!! 何故、何故こんなことになった! 俺はつい今しがた、王族貴族(優秀であれば平民も入れる)が通う学園の卒業パーティーにて堂々と宣言してきたところだ。 『私、カレイド王国第1王子ラティラ・カレイドはラピス・レガーロ公爵令嬢との婚約を破棄し、新たにルチア・レガーロ公爵令嬢との婚約を宣言する!!』 あぁー、やっちゃった。やっちまったわ。完全にこれ、ざまぁするどころか逆ざまぁされるセリフじゃん、これ。 そして俺は見事に逆ざまぁされた。 誰に?―――カレイド王国第2王子ルイス・カレイドに。 あぁー、もうっ!何故。何故こんな大事な前世の記憶を、判決が下る裁判開始の3時間前に思い出すんだ!あぁ、裁判まであと、3時間。リミットは3時間である。 「ルーク」 俺はこんなことになっても唯一自分の側を離れないでいてくれた側近に声を掛けた。 「何だ」 第1王子の側近のくせに傲岸不遜なやつだが、それでも今はやつが俺の唯一の味方。まぁ、それには裏があるわけだが、他に頼れる当てもない。 俺は、漆黒の髪に切れ長で淀んだ紫の瞳の長身の側近を見上げた。あぁ、瞳の紫は淀んでるんだよ、コイツ。まぁ、それにも意味があるのだが今はいい。まだ世界の危機じゃないから。そう、今からなら間に合うかもしれない!世界の危機を回避するために! 「今すぐある場所に行って、裁判が終了するまでに連れてきてもらいたい人物がいるんだ」 「は?面倒くさい。何のために」 ほんっと何なのこのめんどい側近~~~っ!俺は銀色の神秘的な髪に銀糸のまつ毛に縁どられた淀みのない神秘的な紫色の瞳を持つ雪のような白い肌を持つどこからどう見ても完璧な美青年である。自分で言うのも何だが。ちょっと背は低め。この側近・ルークに結構な頻度で“ちび”と言われているが、頭脳明晰、成績優秀、文武両道、魔法も得意な上に希少属性の聖魔法を扱える美貌の王子さまである。 そんな俺の側近は常時この状態である。しかしながら俺の側近から外れたことはない。その理由は長らく知らなかった。いや、知ることすらできなかった。 ―――前世の記憶が戻るまでは。 「世界を、―――救うためだ」 イケメン顔でカッコつけてみた俺。 「はぁ?」 うっわ、何これ!心底バカにしてる!見下してる顔だよこれはっ!! 今ならコイツを解雇することも可能だ。しかしその瞬間恐らく世界は滅亡する。 そしてコイツにこの任務を果たしてもらわねば俺は“シナリオ通り”であれば、塔に幽閉されて脱獄して復讐を果たそうとして殺人未遂を犯し、遂には最終的に処刑されて殺され、世界は滅亡の危機に瀕するんだよっ!! まぁ?第2王子のルイスと俺が婚約破棄しちゃったラピスが力を合わせて世界を救うと思うけど!でもその代わりルイスとラピスが一生|癒《い》えない傷を負うんだよっ!! めっちゃ泣いた。最終回そのシーンでめっちゃ泣いたっ!!結局本当に幸せになれたやついなくねっ!?と言うハッピーエンドなのかメリーバッドエンドなのかわからないラストだった。(※本小説はハッピーエンドです)でも俺は隣国でもあるグラディウス帝国の皇帝アイルだけはめちゃくちゃタイプだったぁ―――っ!アイルの死だけは全く受け入れられなかったわっ!くぅっ!! ぶっちゃけ言えば、―――俺死にたくない。 せめて、せめてそれなら推しと添い遂げるわあああぁぁぁっ! 「ってことで行ってこい!ご主人さま命令だ!―ルギウスルイツァリオン―」 「―――っ!!」 俺がその名を呟いた途端、ルークがぐっと声を押し殺した。 ふふふ、俺は知っている。これがルークを従える最強の武器だということを。そして俺が使わねば何も意味のない呪文だということを! 「じゃ、よろしくなっ!」 「ふんっ」 何だか納得していないようだが。しかしながら渋々ルークはその場からふっと姿を消す。うん、その時点でルークは全く普通じゃない。人間なのかどうかすら謎だ。そもそも俺が拘束されている王侯貴族用の軟禁部屋も普通の人間は入ることは不可能なのだ。入口には見張りが立っているし、俺は国王以外は一切面会禁止となっている身。 さて、間に合うだろうか。そして俺は無事、裁判を乗り越えられるだろうか。

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