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五十九 日々、誘惑。
「そういや、連休あるじゃん。泊りでどこか遊びに行く?」
吉永のセリフに、マグロ丼を食べていた箸を止めた。本日のデート飯は、寮の近くにある『おかざき』という定食屋である。近いと言っても十五分も歩くのだが。
ちなみに俺がマグロ丼、吉永はマグロやまかけ丼だ。あら汁と小鉢が付いて九百五十円とお得感がある。
「それって――旅行って、こと?」
多少の緊張感をもって、そう聞き返す。以前にも誘われたことはあるが、今は恋人同士だし、意味合いが変わる。ドキドキと、心臓が鳴った。
「んぁ? ああ、まあそんな大仰なもんでもないけど。どこか近場でさ。うまい飯食って、風呂でも入って」
「う、うん」
「お前、山の会では日帰り旅行行ってるけど、おれとは行ったことないだろ?」
「ああ、そうだな――何だかんだと」
「そうそう」
吉永は気楽に考えているのか、頷きながらやまかけ丼を大口を開けて掻き込む。
(解ってんのかな。友達と旅行すんのとは違うんだぞ)
「宿とかどうすんの? 今からとれる?」
「ビジネスならとれるだろ。温泉は日帰りやってるとこ探して」
「まあ、そうなるよな……」
本当は恋人と旅行デートなんだから、ちょっと良い宿に泊まりたい気もするが、急に決めたのだから仕方がない。まあ、寮の外でゆっくり過ごすチャンスだ。そちらの方が大事だろう。
「どこ行きたい? 近場だと箱根とか日光とか?」
「草津も良いよなぁ」
具体的な地名が出てくると、現実感が沸いてくる。なんだか、旅行の相談をするのって、楽しいもんなんだな。
「何か旅行ガイドでも買う?」
「今はインスタよ」
そう言って笑う吉永は、なんだか頼もしかった。
◆ ◆ ◆
「吉永は、家族旅行とかよく行ったって言ってたっけ」
「なんだ、覚えてたの?」
柔らかい髪をタオルで拭きながら、吉永が振り返る。吉永は寝間着にしているTシャツに、下は下着姿という少し目に毒な恰好だ。あの脚をわざと晒しているのだとしたら、かなり小悪魔だと思う。まあ、多分そこまでは考えていない。単純に風呂上りだからだ。
「そりゃ、まあ――一応な」
「うちは家族仲良いからな」
「そうなんだ。兄弟とかいたっけ?」
俺の言葉に、吉永が振り返ってジトっと見て来た。
「それは覚えてないんだな。前に言ったけどなあ」
くっ。覚えてない。正直、吉永にそんなに興味なかったし。でも、今は違う。吉永のことは何でも知りたい。
「どう見える?」
「あー。上に兄弟居そう? 甘えんの上手だし」
「えー? おれが甘えるの、航平限定だけどな」
そう言って、吉永はタオルを放り投げると、ベッドに寝そべりながら、スマホ片手に箱根のグルメ情報を探していた俺に這い寄り、チュッとキスしてくる。
俺限定とか、可愛すぎ。
「吉永が兄貴なの?」
「ん。弟と妹いるよん」
「マジか」
お兄ちゃんだったとは。驚いている間にも、吉永はチュッ、チュッとキスを繰り返す。堪らず、頭を引き寄せ、唇を舌で抉じ開けた。
「……髪、まだ濡れてるじゃん」
「ん、ぁ……ん、そのうち、乾く」
くちゅ、ちゅ、と音を立てながら、唾液を絡め合う。舌先を擽り、唇を噛む。スマートフォンは既にベッドに放り投げた。
風呂上がりの体温は、暖かい。吉永はまだ下着姿なので、かなり無防備である。
(まあ、これは良いってことだよな)
そう判断して、下着越しに尻を揉む。柔らかく、弾力のある尻を揉みながら、キスを続けた。
「ん、ふ……んっ……」
吉永の身体がびくびくと震える。肌が薔薇色に染まって、凄く愛らしく見えてしまう。下着をずらして、そっと指を割れ目に這わせる。ぴくんと反応する様子を見ながら、指先で入り口をトントンと叩く。
「さすがに、濡らさないと入らないか」
「っん……、ちょっと」
「ダメ?」
「じゃ、なくて……、下着、脱ぐから……」
そう言いながら下着を脱ごうとしたのを、手を押さえて引き留める。
「なに?」
「このまましようよ」
「――このまま、って」
「だから、このまま」
そう言って、下着をずらした状態で指先を穴に埋める。吉永が理解した顔をして、頬を赤くした。
「また、そういう……」
「良いだろ」
「AV観すぎ」
「VR持ってるやつに言われたくないね」
文句を言い合いながら、俺たちは唇を重ね合った。
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