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六十 アクシデント

 じっくりと解した穴から、指を引き抜く。ぬぷんと引き抜くと、穴が吸い付くようにきゅっと締まった。思わずニマリと唇が緩む。出ていって欲しくないようだ。 (けど、指よりこっちが欲しいもんな)  ひくひく蠢くアナルに尖端を押し付ける。ヒダが収縮性するのが、ゴム越しでも解る。 「挿入れるぞ」 「あ、っん」  ビクッと肩を揺らし、吉永は俺の肩にしがみついた。ずらした下着の隙間から挿し込む。下着を汚すかも知れないが、こういうのは興奮する。  風呂上がりの薔薇色の肌が、よりいっそう赤くなる。 「っ、あ……ん、深っ……」 「吉永、動ける?」  腰を掴んで、ゆっくりと下から揺らしてやる。吉永は目蓋を震わせ、静かに自分から動き出した。  腰をくねらせながら動く姿が色っぽい。堪らず、尻を鷲掴みにする。 「あっ、ん、ぁ……」 「すげー、エロいよ、吉永……」 「ん、ばか……っ」 「誉めてんのに」  恥ずかしそうに俺を睨むが、まんざらでもなさそうだ。腰を動かすのを早くして、俺にしがみつく。  俺はTシャツを捲って胸を露にすると、乳首に吸い付いた。舌先で転がしながら、ちゅうちゅうと吸い付く。 「んぁ、あ、あっ!」  その間にも、繋がった部分が擦れて、甘い快楽を生む。 「すげえ、気持ち良さそうな、顔」 「っ、ぅん、んっ……、航平、は、気持ち、良い……っ?」 「うん。すげー、良い」  ハァと息を吐き出し、唇を重ねる。ちゅ、ちゅくと舌を絡めあい、何度も角度を変えてキスをする。  絶頂が近いのか、腰の動きが早くなる。ギシギシと、ベッドが軋む。 「っあ、はっ……、航平、航平っ……」 「っ、吉永……っ」  再び唇を重ねた、その時だった。  ガチャリ。ドアノブを回す音と共に、扉が開く。 「っす、回覧板――」  308号室の羽鳥壮一郎が回覧板を手にしたまま、驚いた顔をする。 「あ」  ビクッと、吉永が震えた。俺は気まずさに一瞬だけ固まって、慌てて布団を吉永に被せる。 「あ――邪魔しました」  回覧板を玄関の床に置いて、羽鳥がパタンと扉を閉めた。ドクドクと、心臓が鳴る。 (しまった……。完全に、やらかした……)  鍵を掛けていなかった。寮内じゃノックなんかするやつ、皆無なのに。  恐る恐る、布団を剥いで、吉永を見る。吉永は真っ赤な顔で、泣きそうだった。 「あ――あとで、口止めしておくわ」 「っ……! 見られた! 見られたあ!」 「うん。ゴメン、鍵掛けてなくて」  半泣きの吉永の背を撫でて、頬にキスする。吉永はビクビクしながら、しばらくそうやっているうちに落ち着いたらしく、俺にしがみついてきた。 (びっくりした……けど)  自分でも、思ったより冷静だ。他人に知られたのに。見られてしまったのに。  ぎゅっと吉永を抱き締めて、髪を撫でる。吉永はまだ震えていた。 「大丈夫。言いふらすヤツじゃないから。真面目なヤツだし」  羽鳥は新人の一人だ。学生時代は剣道をやっていたらしく、真面目で堅物の男である。嫌悪はしたかもしれないが、言いふらすような男ではない。 「っ、でも……」 「大丈夫だって」 「っ……」  吉永はしばらく黙ったまま、俺にしがみついていた。やがて、ようやく落ち着いたのか、顔を上げて俺を見た。 「……なんでそんなに落ち着いてんの?」 「あ? まあ――仕方がないし」 「それは、そうだけど……」  一度は諦めようとした恋だけど、もう手放す気はないのだし、他人に知られても「はいそうですか」としか言いようがない。男同士だとか、そう言うのは、もう障害になっていないのかも。 「あー、でも、寮内でエッチしてたことは、まずかったかな」  ちゅ、と音を立てて目蓋にキスをする。吉永は「そこかよ」と唇を尖らせた。  吉永の性器に触れると、既にふにゃふにゃだった。すっかり萎縮してしまったらしい。俺も穴から性器を引き抜き、コンドームを外す。なんか、中途半端になってしまったが、そんな気分になれそうにない。吉永が小さく「ゴメン」と呟いたので、キスで返事しておいた。 「で、回覧板?」  吉永をベッドに下ろして、回覧板を取りに立ち上がる。パラリと中の書類を見れば、十周年の案内だった。 「ああ」 「なに?」 「夕暮れ寮、十周年なんだって」 「あー、もうそんな?」 「なんかパーティーやるって」 「うへ」  吉永が嫌そうに顔をしかめる。 「うちの課長も参加するかな。先輩方って、ちょっと面倒そう」 「絶対、まだ居たのかって言われるわ」  ため息を吐きながら下着を直す吉永見ながら、回覧板の自分の名前にチェックマークを入れておいた。 「吉永もチェックしておく?」 「いや、あとで回ってきたら入れておく」 「そ」  回覧するのは明日で良いか。羽鳥に口止めするのも後で良いだろう。まさか、朝起きたら広まってるなんてないだろうな。  ベッドに入り込むと、吉永も横に並んだ。まだ心配そうな顔をする吉永に、「大丈夫だって」とキスをして、明かりを消した。

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