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飲み会開始

閉店の時間になり、片付けをしていると おばさんが工房に僕を呼びにきた。 「もうお迎え来るから、早く行きな! あとは私らでやっておくから」 「で、でも、片付けまでがお仕事ですし…」 「いいのよ。今日ぐらい。ほら、帰り支度しておいで」 「すみません、ありがとうございます」 お言葉に甘えて、いそいそと 着替えをして、帽子をかぶっていたせいで 少し崩れた前髪を軽く整えた。 お店の入り口に行くと、 遠田さんと最近レジをしている大学生の バイトの女の子が話していた。 考えるより先に体が動いて 僕は遠田さんの腕を引いた。 「待たせちゃってごめん」 「びっくりした。八尋、もう行けるのか?」 「うん」 遠田さんが遠慮がちに手を解こうと動いたけど 僕は離さなかった。 腕を組んでる様子を見て、女の子は「仲良いんですね」と微笑んだ。 その様子を見て、僕は腕を離した。 とても良くしてくれている年下の子に マウントを取るなんて…、僕のバカ。 「男子校出身だから、距離感バグってるんだ」と、なんとか誤魔化したけども 気をつけなきゃ。 ここは僕の職場だけど、遠田さんの職場の近くでもあるんだから。 飯田さんが近くにいなかったのが幸いだ。 「片付け押し付けちゃってごめんね」と謝って、僕は遠田さんとパン屋を出た。 飯田さんは先にお店に向かったらしい。 遠田さんと他愛もない話をしながら 予約してもらった居酒屋に入る。 焼き鳥のお店だ、美味しそう… 4人がけのテーブルの、一つだけ席が セットしてある方に飯田さんが座ってたので 僕たちは向かいの席に並んで座った。 料理やドリンクを注文すると、飯田さんが 「改めまして、遠田の同僚の飯田です。 よろしくね、ネコヤくん」と話しかけられた。 「あ、えっと、ネコヤです。遠田さんの同居人です。誘っていただいてありがとうございます」と頭を下げた。 遠田さんからは僕のことをどう紹介しているんだろう? 流石に恋人とは言ってないよね 「でさ、ネコヤくんと遠田はどんな関係なの?」 急に砕けた様子になった飯田さんが、 身を乗り出して聞いてきた。 「だから、同居人だって言ってるだろ」 「でもさ、年齢も出身地も職場も違うのに なんで急に同居人になったわけ?」 「それは…」 遠田さんが困っている。 そりゃ、一言では言えないよね。 しかもヤっちゃった責任で恋人になったとも言えないし… 「えと、まあ、家なき子となった僕を遠田さんが保護して、住まわせてくれてるんです」 あながち間違いではない。 随分とざっくりと言い換えたけど。 「へぇ…そりゃまた特殊だね」 「まあこの話はいいだろ。もっと別の話をしよう」と、遠田さんが言ったけど 「何言ってんの!?何のために二人を呼んだと思ってんだよ」と飯田さんが言い始めた。 こりゃ質問攻めになりそうだ…

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