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0.prologue
この世界には、男女のほかに第二の性と呼ばれるものがある。
支配され、支配する関係。支配されるSubと、支配するDom。
それはこの世で俺が最も憎んでいるものであり、最も好んでいるものだった。
そもそも、この関係は信頼がないと成り立たないものだと言われている。けれど、それは所詮きれいごと。
――信頼関係なんてなくても、SubはDomには逆らえない。
「――|Come《カム》」
そう言われたら、俺の身体はゾクゾクとして、声の方向に動いてしまう。
俺を呼んだのは、やたらと煌びやかな老人。裏社会でも名の通じている、富豪の男。
派手な装飾を好んだ、小太りのこいつ。今の俺にとって、この男は『飼い主』なんだ。
「|雪夜《ゆきや》、本当にお前はいい子だ」
ふわっとした茶色の髪を撫でられて、褒められる。しわくちゃな手が、俺は好きだった。
にんまりと舌なめずりをしつつ、俺を見下ろす表情も。なんていうか、最高の一言で表せる。
「可愛い雪夜。お前を飼えて、私は本当に幸せだ」
「……俺も、ですよ」
こいつらの欲しい言葉なんて、手に取るようにわかる。
だって、俺はずっとこうやって生きてきた。十三歳の頃から、俺はこういう風に変な男に飼われている。飼い主は定期的に変わるけれど、これが俺にとっての日常だ。
今更、止められるようなものでもない。そもそも、本能が支配されることを望んでいるのだ。
だって、俺は生粋のSubだから。支配されて、喜んでしまう人間だから――。
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