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おまけ 設定資料

 今回の小説内世界の設定集です。内容は拙作「そよ風に香る」内のものと同じです。既存のものを元にして独自の解釈や設定を混ぜております。小説内に出てきた説明と被ることもあり、かなり長いです。興味がありましたらご覧くださいませ。 バース性  男女性とともに有史以前からその存在が知られていた性別。α、β、Ωの3性に分類される。αは男女共に陰茎を持ち、子宮を持たないα男性とβ男性以外を妊娠させることができる。βは現実世界の一般人と同じである。Ωは男女共に子宮を持ち(男性の場合直腸から子宮が分岐する)、子を孕むことが出来る。αとΩはフェロモンと呼ばれるものを発することがある。Ωのフェロモンは異性を誘惑し、αのフェロモンは威嚇、誘惑のどちらにも使われる。αはフェロモンをある程度コントロール出来るが、感情が高ぶると制御不能になることもある。フェロモンは匂いとして感じることが多いが、触覚、視覚、味覚など、他の感覚、あるいはそれらの組み合わせで感じる者もいる。αとΩは「孕ませる性」「孕む性」、「陰茎性」「子宮性」と呼ばれることもあったが、今は学術的、法的にα、β、Ωの呼び方で統一されている。  Ωには定期的に発情期(ヒート)がある(一定の条件下では突発的に起こることもある)。Ωの発情期は大体第二次性徴を迎える頃から3ヶ月に1回の周期で発生するようになる。発情期は数日から一週間続く。この際Ωは理性を失い、性的欲求が著しく増加し、フェロモンの量が大幅に増える。また、妊娠する確率も上がる。俗に「巣作り」と呼ばれる行動を取るのもこの時である。月経と同じようにホルモンバランスに左右されるものであり、これよりも短い周期で来る者や、不定期に来る者、全く来ない者もいる。発情期が近いかどうかはフェロモンの多さである程度予測することができるため、Ωは朝起きたらすぐにフェロモン量を測定するのが日課となっている。発情期が近づくとΩは発情期休暇を取ることができる。期間は発情期の間だけではなく、予測日の3日前から、実際に発情期が起きた日の十日後までの間自由に選択できる。また、番、あるいはΩが承認した者に限り、俗に「番休暇」と呼ばれる同様の休暇を取ることが可能である。妊娠した際は一時的に発情期が起こらなくなり、大体更年期頃発情期も発生しなくなる。  Ωは男性であっても陰茎が小さく、また小柄であることが多い。しかしそうでないΩも少なくない上、特に現代は性差が縮まりつつある。  αは陰茎が大きく、Ωの胎内での射精時には「ノット」と呼ばれるこぶができて射精の間陰茎が抜けることを妨げる。射精自体も非常に長く、コンドームも専用のものが必要になる。大柄であることが多く、犬歯が発達している。リーダーシップを取ろうとする性格の者が多く、古来より上流階級にはαが多い。また自分の気に入ったもの、特に意中のΩに対する執着は強い。  αとΩの間には「(つがい)」という現象が起こる。番とは、発情期中のΩがαに項を噛まれると成立する関係性のことである。番になった時の噛み跡は通常一生消えず、他の番を作ることは原則不可能である。番が成立すると、互いに互いのフェロモンしか感じなくなる。番が死んだり他にもなんらかの理由で失われたりした場合、もう片方の精神は悲惨な状態になる。大体は発狂死すると言われているが、それを乗り越えた者は新たに番を作ることができるようになる場合もある(可能になるというだけで、新たな番を探そうとする者は少ない)。番がいても他の者と関係を持つ者は歴史上に稀に見られるが、そのどれもが惨事を引き起こしている。番になるとともに結婚する者も多く、そのためこの世界は昔からαとΩの間であれば同性愛に寛容だった。  αにも発情(ラット)が存在する。Ωの発情のようなものだが、Ωのように定期的に起こることはなく、何かが引き金になって誘発される。ごく僅かに理性が残るが、ほとんどないと言ってもいい。そしてΩの発情はαの発情を引き起こすことが非常に多い。逆にαのフェロモンはΩの発情を誘発しやすい。そのため、望まぬ番が発生したり、望まぬ妊娠が起きたり、逆にΩがわざと発情期にαに近づき強制的に番になろうとする事件も多数あった。  このためもあり、現在は自分から発するフェロモンの抑制剤、相手のフェロモンを感じなくする薬、発情を抑える薬など、頓服剤や注射剤が多く開発されている。近年ではフェロモン抑制剤とフェロモン感知抑制剤を常用しているαやΩがほとんどであるため、互いのフェロモンを知るのは発情期になってから、という者も少なくない。周期的な発情期の際にホルモンに影響を及ぼす薬を飲むことは良くないとされているが、発情期用避妊薬だけは別である。これは発情期の間妊娠せずに済む画期的な薬であり、性交の予定がなくとも予期せぬ事態を避けるために、またいざと言う時に忘れることがないように毎回服用するΩも少なくない。また、番を持たないΩは、そのΩ自身が望まない限り、αに項を噛まれないようにするガードを身につけることが義務付けられている。逆にΩの発情を無理に誘発する薬も存在するが、これは所持しているだけで犯罪となる。  「運命の番」という関係性も報告されている。これは出会った瞬間にαとΩが(Ωは発情期の周期から外れていても)各種抑制剤を無視して発情を起こし、そのまま番になる例である。都市伝説と噂されているが、実例はいくつか報告されており、存在すると言わざるを得ない。運命の番はフェロモンの相性が極端に良いため妊娠率が高く、そのためこのような現象が起きるとされているが、実際には運命の番同士は性格の相性もいいことが多い。運命の番に会った時点で自動的にそれまでの番は解消される。ただし、稀に運命の番を拒否し、それまでの番と再度番になる者もいる。  Ωはαと性交した場合αあるいはΩを妊娠する確率が高く、αやΩは遺伝しやすいことから、昔からΩの生まれやすい家系は上層部のαに庇護され、中には陰ながらαと同程度の影響力を持つに至る者達もいた。ただし「解放運動」により全ての性別の恋愛の自由化が進み、近年このような一族は減少する傾向にある。  古代遺物の中にはαやΩを象ったとみられる像が散見され、神聖視されていた時代があったことが分かる一方、αが過度にΩを囲い込み存在を秘匿していた時代は、一般の家庭で突然生まれたΩは単なる「色狂い」として対処されることもあった。 ダイナミクス性  医学が発展し、グレアの測定による「発見」やゲノムの解読により近年その存在が明らかになった性別。それまでは個人の嗜好だと思われていた。Dom、Normal、Sub、Switchの4性に分類される。Domは嗜虐的な性質を持ち、グレアを発し(目から出ると言われているが謎は多い)、それに指示を乗せることでSubにコマンド(命令)を出すことができる。Subは被虐的な性質を持ち、Domのコマンドに従うことができる。Domが出した命令にSubが従うことでDomは充足感を得る。Subはそれに加えてDomが褒める(「ケア」と呼ばれる)ことで充足感を得る。「ケア」はコマンド停止の合図でもある。これら一連の流れを両者が満足するまで行うことを「プレイ」と呼ぶ。  DomとSubにはそれぞれランクがある。Domはグレアの強さによってランクが決まる。Subは高ランクであるほど強いグレアによるコマンドでも「拒否」出来る。高ランクのSubは自分を従えることが出来るさらに高ランクのDomを好む傾向にあるが、稀にDomに従わされること自体に拒否反応を示すこともある。この場合、プレイが不可能となるため後述の「不安症」や「ドロップ」になる可能性が非常に高く、自分に合ったDomを見つけることが急務となる。  SwitchはDomやSubよりも少ない、かなり稀な性である。しかし存在することは確かである。Switchは自分の意思で、あるいは状況に応じてDomとSubの両方になりうる。Normalは現実世界の一般人と同様である。  Dom、Sub、Switchは第二次性徴より遅れて発現することが多いが、稀に幼児期から発現する者もいる。個々人の性癖が確立する頃とされているが、定かではない。ただし近いことは確かであり、また遺伝しやすいαやΩと異なりこれらの性は突然変異的に産まれるため発見が遅れたと言わざるを得ない。  プレイの際は「セーフワード」というものを決めることが義務付けられている。これはSubが望まぬコマンドに従わされることを阻止するためである。セーフワードとは1組のDomとSubの間で合意して決めるものであり、彼らがセーフワードを変更するまで彼らの間でのみ通用する特殊なワードである。プレイ中にセーフワードをSubが発すると、Domはしばらくの間グレアを発せられなくなり、それに伴いコマンドも出せなくなる。また、プレイ中でなくてもセーフワードを聞いたDomは本能的に一時的に大人しくなる。セーフワードは何でもいいが、性質上プレイ中及び日常であまり使われない言葉を選ぶべきとされている。  同様に、不特定多数の人のいる場所でプレイをすること及びDomがグレアを使うことは禁止されている。この第一の目的は近くにいるSubが巻き込まれることを防ぐためである。嗜好によって屋外でのプレイは禁止されてはいないが、いずれにせよプレイは必ず他に人の来る心配のない場所で行うべきとされている。また強いグレアはαのフェロモンと同じくNormal、さらにはDomへの攻撃手段ともなりうるため特に制御には慎重になる必要がある。  とはいえグレアを制御できないDom、また別室であろうとグレアに過剰に反応するSubは存在するため、バース性と同じようにグレアを一時的に感じなくする薬やグレアの放出を妨げる薬が存在する。  DomとSubには三大欲求に加え「プレイ欲」と呼ばれるものがある。特にSubにはそれが顕著で、Subはプレイをしないと「不安症」と呼ばれる状態になる。これはSubが精神的に不安定になる状態で、また自傷的になる。これが酷くなると「ドロップ」と呼ばれる状態を引き起こす。文字通り底なしの暗闇に落ちていくような感覚とされ、過呼吸、嘔気、目眩、その他の症状が引き起こされ、気絶する。こうなってしまった場合、すぐに対処しなければ植物状態、廃人、最悪の場合死にも至るという危険な状態である。  Domのプレイ欲は性欲と同一視されることが多いが、はっきりと存在する。Domのプレイ欲が満たされない場合、Subとは異なり暴力性が増すことが多い。また、ごく稀にではあるがDomにもドロップが存在する。  不安症やドロップはプレイ欲だけではなく精神的ストレスによっても引き起こされる。薬で緩和することも出来るが、本能的な欲求に基づくものである以上治癒することは不可能であり、可能であればプレイをすることが最良である。ドロップについても、投薬以外に信頼出来るDomやSubの呼びかけで回復したという例がある。  Subは「スペース」と呼ばれる精神状態になることもある。対極にあるドロップとは違い、この精神状態はSubだけが体験するものであり、またプレイ中に発生することが多い。眠ってしまう者、意識はあるものの夢遊状態のようにスペースに導いたDomに無条件に従い、過度に甘える者などスペース中の状態は様々で、その間のSubの認識も「いい夢を見ているようだった」「光に包まれるような感覚だった」「子供の頃に戻ったように感じた」など様々である。スペース中の記憶がないSubもあるSubもおり、さらなる研究の余地がある。少なくともスペースにSubを導いたと理解したDomも大きな充足感を味わうことは確かなようである。  スペース中のSubはスペースに導いたDomに全てを委ねている状態であり、何か異常事態が起きた場合は逆に急速にドロップする可能性があるため、注意が必要である。極めて稀だが初めてスペースを体験したSubが驚いて暴れる例も確認されている。ともあれプレイ中は何があってもDomは落ち着いて対処することを求められる。  Subに危険が迫った時、Domは「ディフェンス」という状態に陥ることがある。この状態のDomは無意識に強いグレアを出し、非常に暴力的になる。Subを守る防衛手段となる一方、ディフェンスに入ったDomを鎮めるのは至難の業であり、甚大な被害を生む可能性もある。  DomとSubは契約(Claim)を行うことがある。端的に言えばDomが特定のSubに首輪(Collar)を付け、所有権を主張することである。このように結ばれたDomとSubは「パートナー」と呼ばれる。これは分類上プレイの延長ではあるが、両性にとって重要な意味を持つ。契約は2人のみで行うパートナーが多いが、結婚のように誓約書を交わし、式を挙げるパートナーもいる。ただし契約式は通常2人と立会人のみで執り行われ、本人達が希望するのであれば披露宴のようなものは別に開かれることが多い。Domの方も首輪に似たデザインの装身具を身につけることがある。 希少性混在者  α、Ωのバース性、Dom、Subのダイナミクス性はそれぞれ全人口に1%ずつ(上述した通りSwitchはさらに少数)しか存在せず、「希少性」と呼ばれる。しかし、これらが混在することもある。このような性別の人物を「希少性混在者」と呼ぶ。  希少性混在者の性質を以下に分類する。なお、データが少ないため、根拠の薄い主観的な記述が多くなることを予めお詫びしておく。  αDom:αとDomの両性を併せ持つ希少性混在者。両性ともにリーダーシップが強いため、最上層部にいることが多く、「至高の希少性混在者」とも呼ばれる。‪α‬Domには起業家や、率先して社会に貢献しようとする者が多い。ただし‪α‬、Dom両性ともに攻撃性が強い傾向にあるためか、反社会的勢力のトップに‪もα‬Domがいることが多いのは甚だ遺憾な事実である。Ω、特にΩSubへの執着は単なるα以上に強く、αDomによる暴力事件が発生することも多い。身内として認めた者に対する情は厚い傾向にある。  αSub:αとSubの両性を併せ持つ希少性混在者。α性を持つ反動からか、並のSubより被虐的になることが多い。α性を持つためΩへの執着が強い傾向にあるが、Sub性があるためかその執着が歪みやすいようで、他の‪α‬性と比べると監禁、他殺、無理心中などの犯罪行為を起こす確率が高く、自傷傾向及び自殺率も高い。しかしリーダーの補佐、まとめ役として活躍する‪α‬Subが多いのも事実であり、ほとんどは人当たりがいい人物である。  ΩDom:ΩとDomの両性を併せ持つ希少性混在者。自分より上の立場にあるαSubを従えることに喜びを感じ、嗜虐性が高い傾向にあり、中には好んでαSubに挿入するΩDomもいる。飽きやすいΩDomに捨てられたαSubが上記の凶行に及ぶことがままある。一方で、いわゆる「姉御肌」気質の者も多く、改革意識も高い。「解放運動」の中でΩの地位向上に最も貢献したのは彼らと言えるだろう。彼らはDomの中でも特別な性質を持つことが知られている。例えば彼らがΩとしての危険を感じた際に自らのΩ性を守るためのディフェンスが起きることがある。また、αSubに項を噛むよう促す「bite」はΩDomのみが使う特別なコマンドである。  ΩSub:ΩとSubの両性を併せ持つ希少性混在者。Ωのヒート、Subの不安症という両性のリスクを抱えており、「最弱の希少性混在者(ミックス)」と呼ばれることもある。これは俗的な差別用語であるが、ΩSubの死亡率が非常に高いのは事実である。まず、早熟にSub性が現れると、最初にヒートが起きた時にそのショックでドロップする確率が非常に高い。そうでなくてもヒートは精神不安定を誘発しやすく、ドロップが起こりやすい時期になる。また、グレアで従わせ、ヒートを誘発させて強姦するなどの悲惨な事件の被害に遭う者も多い。ΩSubには発情期用避妊薬に加え発情期そのものの抑制剤を服用することが認められているが、この薬には発情期の際に放出される大量のフェロモンを抑えることは出来ない。そのため政府に認可されたβDomやΩDomの派遣などが行われており、ΩSubは特に法的に保護されている。また、恋愛の自由化が進んだ今でも、ΩSubは自分に合ったαDomを見つけて早急に番い、契約するべきという風潮がある。これは上記のリスクに加え、αもDomも独占欲が強く、番とパートナーを分けることは危険を伴うためである。ただし、αDomは先述したように攻撃性も執着も強いため、専門家は安易にこの手段を取ることについても警告している。

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