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第13話

 西日の差し込む教室で、暖に好きな女の子がいるのかと呑気に聞いてくる琥珀に、自分が寝ている時何をされたのかも知らずに純粋な友情をぶつけてくる琥珀に、苛立った。  が、それと同時に、その無垢さが愛おしくてたまらなくなった。  終わらせたいのか、始めたいのか、それさえも分からずに、気づいた時には琥珀に口づけていた。  起きて意識のある琥珀がどんな反応をするのか見たかった。  琥珀の目が見開かれていくのを観察した。  さっきまで夕日を映しいつにも増して綺麗だった瞳に、驚愕、そして微かな畏れの色が浮かび上がる。  不思議と冷静だった。  遠くで、友情が壊れていく音がした。  もう琥珀と親友でいられるはずがなかった。  琥珀の口から“冗談”“あんなキス”という言葉を聞いた時、まだ傷つく心があったのかと自分でも驚いた。  本当は友達さえも止めてしまいたかった。一度自覚してしまった琥珀への気持ちは、雪だるまのように加速して大きくなっていった。  琥珀を見ると胸が苦しくなった。近くにいたいのに離れたかった。  夏休みが待ち遠しかった。  明日から長い夏休みが始まるという終業式の日、琥珀はクラスメイトの早坂さんから花火大会に一緒に行かないかと誘われた。  地元では毎年七月の終わりに花火大会が開催されていて、夜店の食べ歩きと射的で暖と競うのが琥珀の楽しみだった。  琥珀は教室の窓際で友達と戯れている暖にチラリと視線をやる。  一瞬、暖がこちらを見たように思えたが、暖の視線はするりと流れていき、琥珀の上で止まることはなかった。 「いいよ」  琥珀がそう答えると、早坂さんはぱっと顔を輝かせた。  姉たちは、琥珀がいつも暖と行っている花火大会に今年は女の子と行くと知ると、ついに男同士の友情馬鹿の琥珀も女の子に目覚めたかと大喜びをした。  そして「よかったね、琥珀」と連呼した。  何がよかったね、なのか。女の子と花火大会に行くことがそんなにいいことなのか。普通だったら喜ぶべきことなのか。  琥珀は……、全然嬉しくなかった。  暖と一緒じゃない花火大会に琥珀は魅力を感じなかった。  暖は今年は花火大会に行くのだろうか。行くのだったら誰と行くのだろう。  暖に親友を解消されたというのに、暖のことが頭から離れなかった。  まるで恋をしているみたいに暖のことばかり考えた。

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