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第18話
「琥珀」
気づいたら琥珀を抱きしめていた。
俺にはできない。絶対にできない。
ポタリと心の泉に雫が落ちた。
もういいじゃないか。これ以上琥珀から何を望むというのだ。
腕の中にいる琥珀に顔をうずめ、思いっきり息を吸い込んだ。
琥珀の匂いがする。
身体の隅々にまで、細胞の一つ一つにまで、琥珀の匂いを行き渡らせ記憶させる。
そうしてゆっくりと琥珀の身体を押しやった。ベッドから立ち上がると、近くにある椅子に腰かける。
「琥珀、これからも俺たちが親友であるために、血の誓いに新しい項目を付け加える。血の誓いその四、俺に一メートル以上近づくな」
「え……なにそれ、どういう意味? さっきのセフレはどうなったんだよ」
琥珀は困惑する。
当たり前だ、自分のやっていることと言っていることは支離滅裂だ。
「セフレのことは忘れろ」
琥珀は何か言いたそうな顔をしたが、
「分かった」
と、しょんぼりうなづいた。
その姿が切なくて、たった今交わしたばかりの誓いを破って、琥珀を抱きしめたくなった。
「で、確認したいんだけど……。これでまた俺たち元通りなんだよな?」
琥珀が窺うように聞いてくる。
元通りなんかじゃない、全然ない。
そう言いたかったが二言「ああ」と返した。琥珀は嬉しそうにふにゃりと表情を崩した。
琥珀は外から二階の暖の部屋を見上げた。
なんだか今日の暖は一段と訳が分からなかったけど、なんとか親友解消を解消してもらった。
花火大会はすでに終わってしまったようで、耳を澄ましても空を轟かせる花火の音は聞こえてこなかった。
今晩は満月だったが、花火を見たあとでは、月がなんだかつまらないもののように見えた。
せっかく親友に戻った暖と本当はもっと一緒にいたかったが、今日はもう帰れと言われてしまった。新しい血の誓いの他に、今後泊まりは一切なし、とも言われた。
それにしても、暖のあれらはいったいなんだったのだろう。セフレになれと言い出したり、今日はキスだけじゃなくあんなことまで。
キスと同じように嫌じゃなかったけどびっくりした。最後までってなんだ。男同士じゃセックスなんてできないだろうに。出っ張りと出っ張りでいったいどうするんだ。
琥珀はポケットからスマホを取り出すと“男同士 セックス”と検索してみた。
「こっ、こっ、これはっ」
これはなんか間違ってないか。そこは入れるとこじゃなくて出すところだろ。男同士のセックスってこんななのか。暖は、こんなことを自分としようとしたのか?
頭がプチパニックを起こす。
あの時は何も知らなかったから、暖がしたいならいいと言ってしまったが、中断してもらえてよかった。
検索画面にちらほら“ゲイ”という言葉が出てきている。
もちろんその言葉の意味を琥珀は知っている。けれど、それは男同士であっても、琥珀の憧れる男同士の世界とは全く異なるものだった。
彼らは琥珀にとってどこか現実味がなく、外国か日本でも東京のような大都会にしかいない人たちだった。この田舎町に住んでいたら、一生お目にかかれないような人種。
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