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第24話
琥珀は旅館の先生の部屋で一人寝ていた。
これでは暖との思い出を作るどころではない。最低最悪だ。
今日の予定は伏見稲荷大社から天龍寺、そして嵐山を巡るコースだった。
「伏見稲荷大社の千本鳥居で写真撮りたかったなぁ」
琥珀は天井に向かって一人呟いた。
琥珀の熱が下がったのは次の日の午後になってからだった。
琥珀の看病をしてくれた若い女教師はせっかくの修学旅行だからと、琥珀に外出の許可を出してくれた。
今日は一日班行動の日で、琥珀の班は映画村に行くことにしていた。今からみんなを追いかけてもよかったが、琥珀は映画村より昨日行けなかった伏見稲荷大社に行ってみたかった。
どうせ暖の隣は紗理奈に独占されている。それに暖の心は丸ごと他の誰かに奪われてしまっている。どこにも琥珀の居場所はない。
琥珀は一人で伏見稲荷大社へ行くことにした。
琥珀は鏡の中の自分をただただ呆然と眺めた。
そこに映っているのは、映画の中から抜け出たような完璧な舞妓だった。
顔と首は白塗り、真っ赤な小さな唇と同じ赤のポイントが目尻にさされている。日本髪のカツラには花かんざしが飾られていた。舞妓特有の裾の長い水色の着物にはたくさんの蝶が舞っていた。
どうしてこんなことになったかというと、伏見稲荷大社に行く途中、琥珀は突然一人の外国人男性に声をかけられた。
彼に付き添っている通訳によると、彼は世界的に有名なフォトグラファーらしい。彼は今日、京都の街を背景に舞妓の写真を撮る予定だったのだが、肝心の舞妓が体調不良で来られなくなってしまった。
代わりの舞妓を探したのだが、なかなか彼のイメージに合う舞妓がいない。予定していた舞妓も、探しに探してやっと見つけた舞妓だった。
琥珀は彼のイメージにぴったりだという。是非ともモデルをお願いしたい。
そう頼みこまれて今に至る。
女の、それも舞妓の格好をするなんていやだったが、撮影場所が伏見稲荷大社ということと、礼金は弾むと数枚の万札をチラつかされ、モデルを引き受けることにしたのだった。
ファンタスティック!
舞妓姿の琥珀を見たフォトグラファーは、外人らしい大袈裟な喜び方をした。
日本人らしくない琥珀の瞳の色が伝統的な舞妓の出たちと相まって神秘的だと大興奮している。
伏見稲荷大社は琥珀の想像よりずっと規模が大きく、念願の千本鳥居は圧巻だった。
そして京都の観光名所がどこもそうであるように、伏見稲荷大社は大勢の観光客とも参拝客とも言える人たちで賑わっていた。
そんな中で舞妓姿の琥珀は注目を浴びた。今さらながら、万札に釣られてモデルを引き受けてしまったことを少し後悔したがもう遅い。
たくさんの人たちに見守られながら写真撮影は始まった。
途切れない連続的なシャッター音を浴びながら、琥珀は千本鳥居に寄りかかったり、鳥居の間から顔を覗かせたりと、いろんなボーズを取らされた。最初は緊張してカチコチだったが、次第に大勢の人に見られるのも写真を撮られることにも慣れてきた。
ふと、見物人の人だかりの中に琥珀の学校の制服を見つけ、琥珀は目を凝らした。
えっ?
琥珀は思わず、そそくさと鳥居の影に隠れた。
そっと顔を覗かせる。
別にポーズを取ったわけではないのだが、シャッター音がいっせいに降ってくる。
暖だった。
見物人たちに混じってこちらにじっと視線を向けてくる、それは紛れもなく暖だった。
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